II

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 佐野くんが挙動不審に言う。  「そ、そうなんだね。えーと、でも良かったじゃない、その"草鹿"?くんって子がいたら、乗れなかったよ」  愛菜は草鹿くんの事を覚えていないような話し方だ。確かに、目立たなさそうな男の子だったけど、率先して三奈木先生の手伝いに申し出ていたし、覚えていても不思議じゃないけどね……  「荷物が予想外に多かったから、彼が別のルートで行けるなら、その方が良さそうだ」  黒木くんはワゴン車のトランクに目を向けながら言う。彼と私だけトランクに荷物は乗せていない、膝上で持っていけるような小荷物だ。  そういえば田島くんの荷物は?  田島くんの荷物だけ見ていない、最初からトランクに乗せていた?  「大丈夫だ田島くん。車は僕が運転するから、君は後の方に座っていなさい」  何やら運転席付近で上ノ宮教授と田島くんが揉めている。  「いや、いや、教授様に運転させる訳にはいかない」  教授"様"って、何か馬鹿にしているような言い方。  でも、なぜ急に上ノ宮教授は運転するなんて言い出したのだろう?  黒木くんの話では今日、田島くんが運転する予定だと聞いていたけど。  「いや、君には無理だ」  上ノ宮教授が言い切ると、田島くんは驚きの表情を一瞬見せてから、納得したような顔をした。  「わかったよ、それじゃあお願いしますよ、教授様」  上ノ宮教授は田島くんの返答に頷き、運転席に座った。  「悪いけど俺は教授様の隣は勘弁だ。後ろの方に座るぞ」  田島くんはそう言うと、後部座席のスライドドアを開き、3列目の右端に座った。  「えーと、じゃあ誰が助手席に座る?」  愛菜は私のを避けながら皆んなの顔を見る。  すると、運転席から声が聞こえてきた。  「厳島さんどうですか?僕の隣に座りませんか?」  上ノ宮教授が私に話しかけると、一気に皆んなの視線が私に集まった。  私は耐えきれず、地面に顔を向ける。  どうしようかと、迷った。  この痛い視線を浴びながら、助手席に乗るか、それとも素知らぬ振りをして、上ノ宮教授の言葉を流すか。  愛菜を見ると、絶対にダメと口パクで言いながら、右手の人差し指と左手の薬指で✖️を作っている。  だけど私はどうしても上ノ宮教授の言葉を流すことはできない。  助手席のドアを開けようとした。  「俺が座るよ」  流斗がドアを掴んでいる私の手を押さえた。  私が驚いて流斗を見ていると。  「俺が座るから、詩音は後、座ったら?」  そう言うと私の前に割り込んで、助手席に座った。  「決まり。じゃあ、皆神くんは助手席。他の皆んなは後ろね」  愛菜はそう言って私の背中を押しながら、後部座席へと導く。  
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