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田島くんが開けっ放しにしたスライドドアから先ず小太りの佐野くんが乗り込んで、左端に座った。
田島くんに鋭い目で睨まれた佐野くんは縮こまりながら、窓の外に目を向けた。
次に黒木くんが乗り込もうとすると、愛菜が阻止した。
「ダメ、ダメ、黒木くんは2列目ね」
黒木くんの腕を引っ張る。
すると、田島くんが驚いた顔をした。
「おい、おい、愛菜ちゃん。まさか、黒木のことを」
えっ?そうなの?愛菜いつの間に流斗から黒木くんに心変わりしたの?
「はあ?違うわよ。ほら、進藤さん後に座りなさい」
愛菜は命令口調で言ったが、進藤さんは戸惑っている様子だ。
何せ右端にはついさっきまで愛菜の黒木くんに対する行動が気になっていたのに、今は"進藤さん"と聞いて鼻の下を伸ばしている見た目がチャラいヤンキーの田島くんが座っている。そして左端には汗が止まらない小太りの佐野くんが座っている。
進藤さんの顔は明らかに座ることを拒んでいる。
「わかったわよ、私が後座るから。2列目は先ず黒木くんね。で、その隣は詩音、そしてドア側の左端には進藤さんね」
私達は大人しく愛菜に従って座った。
「はあ、成る程な」
田島くんは何かに納得したような素振りで愛菜を見た。
「ああ、詩音は気にしなくて良いから、ほら前、じゃなくてなんなら、右横を向く」
愛菜が私の顔を掴んで、黒木くんの方を向かせた。
「ふぁんで?」
何で?と、言ったつもりだったけど、頬を抑えられて上手く話せなかった。
黒木くん側に向くと、黒木くんも私の方を向いていて、目が合った。
「ハハ、大丈夫?厳島さん」
楽しそうに笑う黒木くん、だけどレンズ越しの瞳は何処か遠くを見ているような気がした。
「ゴホン、それでは後部座席の皆さん出発しても良さそうですか?」
運転席の上ノ宮教授は合図と共に車のエンジンを掛けた。
ワゴン車がゆっくり動き出すと、強引に黒木くんに向いていた体勢を整える。
身体を前に向けると、視線を感じた。
誰?
視線の先を探していると、ルームミラー越しに流斗と目が合った。
なに?何か用?
と、声に出さず口パクで話すと、流斗の口が"バーカ"と動いているのがミラーに映った。
「仲が良いんですね」
運転席から聞こえて来た。
ルームミラーに流斗とは反対の右端に上ノ宮教授の顔が見えた。
「皆神くん、僕の講義は初めてですよね?」
上ノ宮教授は流斗に笑顔で訪ねると、流斗は一瞬不機嫌な顔を見せたが、直ぐ笑顔で応えた。
「そうなんですよ、上ノ宮教授とお話しするのも今日が初めてですよ」
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