II

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 黒木くんを見ると、彼も不自然な体勢で腕を窓に押し付けていた。  「黒木くん、ごめんね。無理な体勢をさせてしまって」  「いや、大丈夫だよ」  黒木くんはそう言うと腕を窓から離した。  「何となく厳島さんには触れてはいけない気がしたんだ」  黒木くんは小声でボソッと言った。  触れてはいけない?  どういう意味?  誰かに私と親しいと勘違いさせてはいけないとか?  愛菜は黒木くんが私に気があるようなことを言っていたけど、私は何となく違う気がする。  「でも、白井先輩には皆神先輩より田島先輩の方がお似合いですよ」  進藤さんの突拍子もない発言で、田島くんが意気揚々とした声が聞こえた。  「やっぱりそうだろう。だから、俺は愛菜ちゃんに何度も言っているんだ。俺の方が良いだろうって」  私は横目で後の席を覗くと、田島くんは愛菜の肩に手を回そうとしている。  「ちょっと!辞めてよね」  愛菜は強い口調で言うと田島くんは諦めたのか、不機嫌そうに両手を前で組んで。  「ってかさあ、皆神おまえって三奈木と付き合ってるんじゃないのか?」  嫌味混じりに流斗に話を振る。  「ハハハ、愛菜ちゃんに振られたからって俺に当たるなよ」  流斗は田島くんの話を笑い飛ばした。  そもそも上ノ宮教授がいるのよくそんな話を持ち出したなあ。  そっとミラー越しに教授の様子を伺うと、教授は聞こえていないのか、黙々と運転をしている。  「ってかさあ、あんなババアの何が良いの?」  田島くんが三奈木先生をババアと呼んだ瞬間、違和感を感じた。  三奈木先生はどうしたって"ババア"には見えないし、実際年齢も確か30代だったと思うし、寧ろ若く見える方だと思う。私達と同年代だと言われても違和感はない、しかも美人だし、何で田島くんはあんな言い方を?……そういえば田島くんいつも三奈木先生のことは嫌味たっぷりに話す。何か彼女に恨みでも持っているのだろうか?  「み、三奈木先生はババアなんかじゃない!」  突然誰かが叫んだ。  びっくりするような大きな声。  「か、彼女は女神様なんだ」  ワゴン車最終列左側から聞こえてきた声の持ち主は佐野くん。  彼の雄叫びにも関わらず上ノ宮教授は安定した運転を続けている。私なら間違いなく驚きのあまり事故を起こしていたに違いない。  「み、三奈木先生のあの美しい顔、漆黒の髪、艶のあるフォルム。嗚呼、彼女は完璧だ」  佐野くんは顔から汗を垂らしながら、うっとりとした眼差しで三奈木先生の素晴らしさを語っていたが、彼の言葉で皆んなが引いているのが空気で感じ取られた。            
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