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Ⅲ
樹木に囲まれた細い道路をワゴン車は迷いもなく突き進んで行く。
空が曇っているせいか、真昼間なのに薄暗い。
急勾配道には幾つかカーブがキツい所もあり、その度に私は黒木くんの上に倒れそうになった。
坂道を登り切ると目の前に現れたのは異様な色が水面に映し出された湖。
赤い湖……
何故か懐かしさのようなものを感じた。
「へえ、あれが真那月湖かあ」
愛菜は後部座席から身を乗り出しながら、私と進藤さんの間に顔を出した。
身を乗り出す為に少し左に寄ったことによって愛菜は佐野くんに接近。
先程、田島くんに睨みつけられて以降、大人しくなっていた田島くんだったけど、今度は愛菜を横目で追いながら、顔から大量の汗を流している。
「佐野、凄い汗だな。大丈夫か?」
私と同じく佐野くんの異様な汗に気づいたのは、最前席に座っている流斗。
だけど、私とは違い本当に佐野くんの体調を気遣っているよう。
「ほ、ほっといてくれ、君には関係ないだろ」
怒った口調で佐野くんは流斗に返した。田島くん相手にはビクビクしていたのに……佐野くんは意外と気が強いのかもしれない。
「怖いですね、厳島先輩」
隣に座っている進藤さんが小声で言う。
「ああいう人が一番怖いんですよ。一見大人しそうに見えて、実は一番卑劣な事をしたりするんですよ。厳島先輩も気をつけた方が良いですよ。まあ、でも一番危険そうなのは白井先輩ですよね。だって両端に狙われてそうですよね」
進藤さんはそう言って、田島くんと佐野くんを交互に見た。
「皆さん、到着しましたよ」
上ノ宮教授はそう言って、車を止めた。
大学の駐車場を出発してから3時間後の午後1時少し前、私達は夏季特別講義の舞台である"真那月湖ヒムラペンション"に到着した。
上ノ宮教授は1度だけサービスエリアにワゴン車を止めて、休憩を取った。田島くんが三奈木先生の奇妙な噂話をした直後だ。その1度以外は休みなく、一人で運転して来た。
疲れていないだろうか?
車を降りながらワゴン車の後方に向かう上ノ宮教授をチラッと見ると、目が合った。
まただ。
上ノ宮教授は優しく微笑むと、車のトランクを開け始めた。
笑顔なのに何処か切ない目をしている。
どうして?
なぜ、こんなに胸が締め付けられるのだろう。
「何でだろうなあ」
心の中を読まれたのかと思い、ドキッとした。
いつの間にか流斗が横に立っていた。
「何が?」
流斗に"何で"の意味を聞こうとしたが、流斗はボソッと何かを言うと、ワゴン車の後方へと歩いて行った。
"何でアイツなんだろうなあ"
と、聞こえたような気もした。
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