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 N講義室に入ると、固定式の長机がズラッと並んでいる中段辺りの右端の席に見覚えのある明るめのカールロングヘアの後姿が見えた。  「おはよう、愛菜(まな)」  私が話しかけると愛菜は目を細めて私の顔をマジマジと見てきた。  「珍しいね、詩音が遅刻なんて」  時計を見ると9:05。  「まだ5分あるんだから、遅刻じゃない」  私が机にリュックを乗せて、イスに座ろうとしたら、グレーストライプ柄スーツでビシッと決めた上ノ(かみのみや)教授が入って来た。  「ギリだね、ギリ」  白井愛菜はそう言って、スマートフォンに目を移す。どうやら今日も上ノ宮教授のオカルト講義は聞く気がないらしい。  一応は情報学部に分類されるらしいけど、その内容は明らかにオカルトだ。テレパシーからポルターガイスト、予知能力に関することとか、情報学部というより異常学部。愛菜は遊び半分で上ノ宮准教授の講義を選択したらしい。  「ESP即ち超感覚知的の一つである予知能力ですが実は科学的にも……」  上ノ宮教授が未来の予知能力についての説明をしている時、愛菜がスマートフォンの画面に目を向けたまま話しかけて来た。  「ねえ、あの噂本当なの?」  「噂?何の噂?」  私は上ノ宮教授の授業に耳を傾けながら愛菜に応える。  「皆神くんよ、皆神くんの噂」  流斗の噂?今更だ。  子供の頃から私と違っていつも輪の中心にいる流斗はどこへ行っても噂が絶えない。  「ねえ詩音は皆神くんと幼馴染でしょう、何か聞いてないの?」  今度は何?流斗がどこの誰かと付き合い始めた?別れた?それとも修羅場になった?  「三奈木先生」  思いがけない名前が愛菜の口から出た。  「三奈木先生って、心理学の?」  綺麗なストレートのロングヘアを()かせながら、颯爽と歩く大人の女性。そんなイメージの心理学の講師。男子学生から人気があるのは間違いない。  「その三奈木先生と皆神くんが付き合ってるらしいのよ」  愛菜は今度スマートフォンを置いて何故か鬼気迫る口調で言う。  私は"へえ、そうなんだ"程度にしか思えない。だってなら准教授と付き合っても全然不思議ではない。  「ちょっと詩音、何無関心な顔してるのよ。皆神くん、不倫よ」  不倫?  「愛菜、な……に言ってるのよ、流斗が不倫って」  「三奈木先生結婚してるのよ、しかも三奈木先生が皆神くんの子供を妊娠したって噂よ」  「えっ?うそ!」  それはあり得ない。  妊娠させたことではない、流斗が結婚している人と付き合うなんて、そんなことあり得ない。  だって、流斗は……  
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