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そう、私が真面目に上ノ宮教授の"記憶"に関する講義を聴いていた時、前の席に座っていた愛菜は突然こちらに振り向いたのだ。
「ねえ、あの教授っておかしな話してるけど、顔だけは良いって思わない?私、実はイケメン教授目当てでこの授業選択したんだよね。ねえ、もしかして貴方もそう?」
"前世の記憶"に関しての講義で私が一番聴きたい部分だったけど、突然、上ノ宮教授の顔について訊かれて戸惑った。何故なら私も上ノ宮教授の顔に惹かれて"超常現象と脳科学"というマニアックな講義を選択したのだから。
だから私は頷くしかなかった。
「確かに私も上ノ宮教授に興味を持って、邪な考えで選んだ講義だけど、愛菜もそうじゃなかった?」
廊下を暫く歩くと鮮やかな緑色が地面一帯に広がっている中庭が見えてきた。
自動扉が開くと途端に熱風が顔全体を襲った。
「うわー暑いね」
愛菜は私の質問に答えず手で顔を仰ぐ。
天から照りつける炎は私達の体温を上昇させ、直ぐに額に汗を浮かばせる。
「今日の最高気温は37度って天気アプリに表示されてたし、今が丁度その時だと思う」
私はそう言いながら手元のスマートフォンに目を移した。
"現在気温 39°"
予報よりも気温が高い。
東京都の最高気温は何度だったかな?もしかして今日記録更新?
「ねえ詩音、あれ皆神くんじゃない?」
愛菜が指差す左前方に目を向けると黒のストライプ柄の半袖シャツを着た細くて背が高い男がいる。
「相変わらず白いなあ」
思わず口に出してしまった。
「はは、詩音何その発言、皆神くんに嫉妬してるみたい」
愛菜は笑いながら言う。けど、嫉妬なのは本当だ。子供の時から色白で綺麗な顔立ちをした流斗の横を歩くのはあまり心地の良いものではなかった。
何故ならいつも比べられていたから。
"あら、流斗くんは本当に可愛いわね"とか、"こりゃあ坊主と嬢ちゃんが逆だわなぁ"とまで言われた事があった。
それは小学校に上がっても変わらず、中学生になると流斗が近くにいるだけで私に災いをもたらし、それは高校になっても続いた。
だから流斗から逃れたくて実家を離れた。
神奈川の端にある実家から東京の大学までは通える距離だったけど。
「皆神くーん」
愛菜が大声で流斗を呼ぶと、近くにいた女の子数人の輪が一斉に愛菜を見た。
私の脳裏には中学生の時の苦い思い出が蘇った。私は流斗の幼馴染というだけで、疎まれる存在だった。
流斗はこちらを見ると手を上げ、大きく横に振った。
愛菜はコチラに痛い視線を送っている女の子達を気にせず、手を振り返す。
「なに、もしかして食堂向かってるの?」
大きな声で話しながら、流斗は私達の方へと近づいて来た。
「そう、詩音と二人で食堂へ行くの。皆神くんも一緒にどう?」
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