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卒業までもその後も
窓から注がれる温かい日差し。
教室内に溢れる笑い声。
眠気を誘う心地よい喧騒。
そんな優雅な午後のひととき――
「じゃなーいっ!」
「わっ……!?」
机をバンと勢いよく叩いて立ち上がったあたしを、前に座っていた利香が驚いたように見上げた。
「ちょっ、玲奈?いきなりどうしたのよ」
「だってだって!つまんないんだもん!」
そう言ってぷくっと頬を膨らませれば、利香が呆れたような目をしてくる。ひどい!
「何が、つまらないーよ。さっきまで給食のデザートじゃんけん勝ったって、ニコニコしてたじゃない」
「今はつまらないの!やることなくて暇なの!」
「あんた塾の宿題終わってないんでしょ?やりなさいよ」
「利香冷たい!」
うえーんと泣き真似をしてみるけれど幼稚園からの親友には全く通じない。
はいはい嘘泣き、と即バレしたからとりあえずテヘッと笑っておく。
「でもさー、本当につまんないんだもん。みんな勉強勉強って、勉強ばっか!ちょっとくらい休みたいよー!」
学校で勉強。帰っても勉強。塾でも勉強。
これがあと3ヶ月も続くのかと考えるだけで病みそうだ。
いっそのこと明日が受験本番だったら良いのに。
……うん、やっぱりあたしの学力じゃそれは無理だ。不合格通知が来ちゃう。
でもでも勉強はしたくないー!と机に突っ伏して悶えるあたし。
「受験生なんだから諦めなさい」
「ええー……」
ちらっと顔を上げてみれば、利香は再びワークへと視線を戻していた。
利香だけじゃない。
周りを見回せば、教室内のクラスメイトたちは単語帳を見たりプリントを解いたり。
皆静かにしていて騒いでいるのはあたしだけ。
何だか落ち込んできてあたしはもう1度机に伏せる。
しばらくそのまま静かにしていると、頭上ではあっとため息が聞こえた。
「もう、何で急にそんなこと言い出したのよ?」
「……」
「玲奈ー?」
「……だってぇ……」
勉強が嫌なだけじゃない。
すごく嫌だけど、それだけじゃなくて。
利香もクラスメイトたちも。
どんどんみんなが変わっていって。
環境も変わっていって。
「気づいちゃったんだもん……」
もうすぐ。もうすぐで卒業しちゃう。
3ヶ月なんてきっとあっという間なんだろうなって思っちゃったから。
「卒業したら利香と、今みたいに毎日会うことも、話すこともできなくなっちゃう……」
卒業したら。
「遊んだり写真撮ったり、クレープ食べに行ったりもできなくなっちゃうんだもん……」
ぐりぐりと自分の腕に額を擦り付けて、どうにか泣きそうになるのをまぎらわす。
利香は頭がいいから一緒の高校には行けない。高校からは別々になる。
「高校離れたって遊べるでしょ?」
「だって高校生は忙しいってよく聞くじゃん……」
「そりゃあそうなるだろうけど」
「うー……」
これがわがままなのはわかってるもん。
けれどパッと切り替えられなくて、あたしはまだ腕にぐりぐりしていた。
「玲奈……」
不意にあたしの頭に温かいものがのった。
それはゆっくりと優しい手付きで髪を撫でていく。
「……今日は休んじゃおっか!」
「えっ……」
驚いてバッと体を起こしたあたし。
「私塾ないし、玲奈もないでしょ?放課後クレープ食べに行っちゃお」
いたずらをする子供のように利香は笑った。
普段ならこんなこと言わないのに。
戸惑うけれどそれ以上に嬉しさが込み上げてくる。
「っ……うん!行くっ!」
予想以上に声が大きくなってしまったけれど気にならなかった。
「行く行くっ!やったぁ!」
利香とクレープ。
久しぶりでにやけるのを止められない。
自分でも単純だなぁと思う。
早く放課後にならないかなぁ。
「でも玲奈、宿題残ってるでしょ?」
「へ?あ、うん、でも今日は塾ないし明日でも」
「だーめ!終わらせてからじゃないと行かないからね」
「えぇっ、そんなぁ!」
「ほら、見てあげるから開いて」
「っ、りかぁー……ほんとに神っ!」
「はいはい」
まだ受験は終わってないし卒業もしてないけれど。
高校に入ってもこの関係はこのままで、また利香と一緒にいられたらいいなって。
そうあたしは思った。
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