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「ケイ、ここにいたんだ。探したよ。」
Louisが人の間を縫って、こちらに声を掛けて向かってくる。
「あぁ、Louis、ごめんなさい。うろうろしちゃって。」
「Louis、私の夫の・・」
私はDennisに紹介する。なぜかバツの悪い感じがした。一人になったDennisに、既婚者の私が、夫を紹介する状況に違和感を感じる。
「初めまして。妻と知り合いとは知らなかった。」
「大昔にちょっと仕事させてもらっただけだから。」
私は嘘をついている。Dennisは私が生涯をかけて愛する唯一の人だ。
「作品はよく読ませてもらっています。お会いできて光栄です。」
「ありがとうございます。いや、結婚おめでとうかな。」
穏やかな雰囲気を作り上げて、二人の大人は社交辞令を見事に滞ることなく済ませる。
「ケイ、会わせたい人がいるんだ。ちょっと失礼。」
Louisは会ったばかりのDennisに背を向けて、私の腕を掴んで牽いていく。Dennisとの会話が途中になってしまった。私は彼に視線を向けて目で謝った。Dennisは微笑んで背を向けていった。
Louisは会場の隅に私を連れて行ったが、私に会わせたい人はいなかった。
「あの作家と知り合いだったんだ。」
Louisの真面目な顔が迫ってくる。
「えぇ、大昔、仕事をちょっと手伝ったの。数週間だけ。」
「すごく親しそうに話していたから・・・」
「嫌だ、ヤキモチ焼いているの?」
私は砕けて振る舞うことで、この場の緊張を緩めたかったが、空気は変わらなかった。Louisは笑っていない。詰問するような調子は続いた。
「じゃあ、全然会っていないの?」
「・・・全然。」
私は嘘をついた。本屋で偶然会ったことも話さない。
「なぜアジェンダを見た時に言ってくれなかったの?」
確かに、私にとってDennisがただの仕事関係の人間でしかなかったのなら、Loiseに話していただろう。私は故意に隠していた。
「だって、もう関係のない人だし、すごく昔のことだから・・」
「君のこと知りたいんだよ。僕のことは全部話しただろう。」
私たちは初めての結婚ではなかったし、これまでのことをお互い洗いざらい話していた。私も覚えている限りの過去を彼に話した。Dennisのこと以外すべて。
「すみません、ちょっとお願いします。」
スーツを着慣れていない青年が近づいてきて、Louisに何か耳打ちした。
「上司が呼んでいるから行かないと。」
Louisは私にそう言うと、その青年と話しながら遠ざかって行く。私は安堵した。妻の仮面を外して、Dennisへの愛を見せることはできない。私の安定した生活が終わってしまう。そう考える自分が醜くて吐き気がする。
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