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 どうして今、会ってしまったのだろう。結婚を決めた後であることに、私は拘っていた。Dennisにとって私の結婚など何の意味もない。私が彼の居場所をいつも自分の中に作っておきたかったのだ。彼がいつでも帰って来られるように。 家に着く前にDennisからの着信に気づいた。 『大丈夫?』  Dennisはいつものように私を心配する。彼のテキストに何と返答したらいいのか迷った。彼が私を拒絶しておきながら、心配して追いかけてくることが解せない。彼に拒まれた痛みを忘れてはいない。彼が手を取って導く女の姿も焼き付いている。Dennisがまた私の現実世界で息を吹き返すことをどんなに望んでも、それが私に与えられるとは信じ難い。 『もちろん。』 と、私は文字にすら感情が乗らないように送信した。  結婚するなと彼が返信してくれることを待っている。数分、数時間が過ぎ、Dennisと繋がれていた何かが、今度こそ断ち切られてしまった。彼とはもう会えないだろう。私が自分で決めた結婚だ。  偶然にTropismesで会ったことに、何の意味もつけられない。でもきっとDennisにとってはハッピーサプライズではなかっただろう。私は疫病神だから。彼に拒絶された古傷は癒えることがない。  内側が岩に当たる波のように砕け続けるのに、私はLouisと静かに暮らしている。朝が来て、夜が来て、朝が来る。Dennisは変わらずに生き生きと私の中で暮らしている。彼と別れることはできない。私は上手に均衡を保ちながら、ありきたりの毎日を通り抜けて行けるようになった。 「慈善団体のチャリティーパーティーがあるんだけど、同伴してくれる?」  Dennisと偶然会ってからひと月ほど過ぎた頃、Louisは仕事から帰ると真っ先に私に聞いてきた。 「いつ?」 「来週の金曜。」 「ええ、大丈夫よ。喜んでお供します。」 「良かった。やっと一人で出席しなくてよくなったよ。」 彼は晴れやかな顔で、私にパーティーの案内を手渡した。 「素敵な招待状ね。有名人のスピーチもあるの?」 「あぁ、賛同してくれた著名人とか芸術家が、短いけど話をするよ。画家とか、作家とか・・」 「・・・・・」  次に出てくる言葉が消えていった。Dennisの名前がアジェンダにある。Louisに彼のことは話していない。もう終わっていることだから、話す必要もない。過去のことだ。自ら彼を困惑させることはない。  書類上の手続きは済んでいる。公的に、私はLouisの妻として参加するのだ。Louisは結婚式やパーティーを望んだが、私は大袈裟にしたくなかった。彼の娘、Claireの記憶に結婚式の映像を残したくない。Louisへの言い訳に彼女を利用したが、本当は私が望んでいない。白いドレスを着て、彼の隣で神の前に立つことができなかった。私は純粋でも神聖でもないから。白いドレスはLouisを喜ばすことができても、私の汚さは私から隠せない。白いドレスの下では、醜い塊になってしまうDennisへの愛を見る強さは私にはない。  慈善パーティーには、Dennisもあの金髪美女の手を取って登場するのだろう。実際に目の当たりにすることを想像してみる。息ができない。やはり、パーティーには行かないほうがいいかもしれない。しかしLouisの喜ぶ顔を曇らせたくはないし、一度承諾してしまった。それにDennisが彼女といるところを自分の目で見れば、私の居場所など何処にもないことを思い知ることができる。また自分を痛めつけるのだ。馬鹿な思いは捨てて、Louisだけを愛するように。人生は私からDennisを引き離すように動いているのだろう。
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