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二人の姿を見る前に、私は退散したかった。紹介されたら、私の役を正確に演じ切る自信がない。会う前に帰りたい。
「いや、別れたよ。もう、ひと月ちょっとになるかな。」
「・・・ごめんなさい。プライベートなこと聞いちゃって。」
悲しそうに見えたのは気のせいかもしれないが、Dennisが苦しんでいるのかと思うと私の息は止まる。彼は幸せでいなくてはいけない。
「いいよ、別に隠すことじゃないし、メディアにいろいろ書かれるから面倒だけどね。」
「大丈夫?」
彼のいつもの台詞を私が言う。
「もう大丈夫。よく考えて下した決断だから。」
彼の顔は、スッキリしているようにも見えた。もう心は落ち着いたのかもしれない。
「大変だったみたいね。」
彼女と別れたことを嬉しいとは思えなかった。あんなに私を苦しめたシャンパンゴールドのドレスが消えたというのに、喜べない。それよりも彼が苦しい時を過ごしたのではないかと思うと、自分も苦しくなった。
「いや、自分で決めたことだし、そもそも僕が原因だから。」
「浮気したの?」
「そんなんじゃないよ。・・・いろいろあって・・・」
彼が私に話したいのか隠したいのか、その様子からはわからない。彼が話したくないことを追究したくない。
「生きているといろいろあるものよね。でももう元気になったみたいでよかった。」
私は当たり障りない言葉を選んで、彼の本心には触れない位置を保った。
「・・・ケイが幸せだったらそれでいいよ。」
なんの脈絡もなく、なぜそんなことを言うだろう。私は返す言葉が見つけられない。
「・・・」
うまく言葉が見つからない。でも、私は二人にとってこの瞬間が、とても大事に思えた。今、彼と話さなければいけない。彼の思っていることを知りたい。私の思いを見せたい。Dennisは最後の人である。そして生涯でたった一度きりの真の愛である。Dennisを愛している。
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