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 二人の関係がどんな状態であろうと、生活は進んでいく。時計の針に躊躇はない。それまでのようなLouisの愛情を感じられないまま、私は毎日を通り抜けた。結婚とは元来こんなものである。二度目の結婚生活に期待はない。それは諦めではなく現実だ。Louisにとってもそれは同じ感覚のように思えた。お互い過大な期待はしていない。Louisはこれからおとずれる老後、傍にいてくれる人がいればいいのだ。それは愛などというお伽話ではない。彼が求めているのは現実の寂しさを埋めるものだ。私は彼の傍らを埋めればいい。いや、私は高を括っていたのかもしれない。  金曜の夜、LouisはZoeの進学の相談に行くと言って出掛けたきり戻らなかった。連絡なく帰宅しないことはなかったから、翌朝、彼のいないダブルベッドは寂しく、不安にさせる。これは愛情なのか愛着なのか。いつもあるものがないという喪失感だ。繰り返される毎日の一部分が欠けていることに違和感を感じる。それは愛情ではない。  ベッドから起きずに電話を掛けてみる。留守電になる。そのうち帰ってくるだろう。キッチンに珈琲を淹れに起きる。Dennisを心に住まわせたままLouisとベッドに入る後ろめたさを、珈琲で流し込みながら、Louisの帰りを待った。Dennisに向かって顔を出してくる心を、部屋の中に押し込める。乾燥した部屋に珈琲の香ばしい湯気が立つ。 「ごめん、連絡できなくて。」  昼前にLouisは帰って来た。疲れた様子ではなく、いつもの出勤前のように清潔で清々しく見える。それでも私は心配で尋ねた。 「大丈夫?何かあったの?」 「いや、Zoeの進学先をどうするか、いろいろ話していたら遅くなったから、そのまま泊ったんだよ。」  私と暮らすようになってから、Louisはどんなに遅くなっても、元妻のところには泊まらずに必ず帰ってきていた。昨夜泊ったのは私への当てつけか、警告だろうか。私は嫉妬すべきだろうか。 「そう・・・それで決まったの?学校?」 「あぁ、結局本人の希望するところにしたよ。」  Louisは出掛ける前に持っていた私への不信感を持たずに、代わりに自分を隠すための新しい薄い幕を張っていた。薄くても頑丈で私は入り込めない。 「・・良かった、じゃあ、進学問題もひと段落ね。」  私は通常の生活の流れを作り出すように、言葉の選択も音の響きも調整する。 「うん、そうだね・・明日の仕事の準備をするよ。」 Louisは書斎に消えていった。初めてお互いの間に皮下組織の腫瘤を感じた。
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