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 ドアベルが鳴って、私の思考は遮断された。玄関を開けると配達人ではなく、Claireが立っていた。 「これ、パパが忘れていったの。近くまで来たから、持ってきた。ないと困るんじゃないかと思って。」  Claireは挨拶もなく、分厚い書類の入った紙袋を、気の抜けた私に無作法に差し出した。 「あぁ・・そう・・わざわざありがとう。」 突然の訪問に面食らった私は、何とかお礼を言った。 「どうぞ、入って。お茶でもどう?」 「いえ、いいの、届けに来ただけだから。この頃、パパはよくママに会いに来るから、ケイと喧嘩でもしたのかと思って。」 「喧嘩なんかしてないわ。大丈夫よ。ありがとう。」  なぜお礼を言っているのか、自分でもわからない。Claireは私にLouisがママと会っていることを伝えに来ただけなのに。 「そう、じゃあ、パパに渡しておいて。もう行くわ。」 「気を付けて。」  Claireは含みのある笑顔を見せて、後ろ姿になっていった。Louisが元妻のところに行っていたと知ったところで、私にはあまり驚きはない。Claireには悪いが、想定していた筋書きだ。彼が私に隠していることもわかる。浮気相手が特定されても、されなくても、私は変わらない。Claireの敵意のような感情は嬉しくはないが、可愛く見える。私が邪魔で仕方ないのだろう。夫が元妻と頻繁に会っていることに嫉妬しない私のほうが、人間の感情をうまく使いこなしていない。Claireは人間らしく生きている。    次の朝、起きて来たLouisにClaireが家に来て書類を置いて行ったと告げた。 「あ、この前かな、どこに置き忘れたんだろう。車かと思っていたんだけど・・ないから、書斎かなと・・・事務所になくて・・・」  Louisの動作はぎこちなく、言葉も繋がらない。きっと元妻の家に行っていることを私に知られたくないのだろう。私が怒ると思っているのだろう。私は怒って問い詰めるべきかもしれない。 「珈琲?紅茶?」 私はどこにもない感情を形にはできずにキッチンに逃げた。 「紅茶いれてくれる?ありがとう。」 私もLouisも書類の袋にはもう触れなかった。
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