【おまけ】予め定まっている

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「子供のいない、二人だけの生活でもいいんだよ」  あいつはそう言ってくれていた。  信じられなかったのは私。どうしても、どうしてもそれは嘘だとしか思えなかったの。  結婚したら子供を作って、そうして家族を形成するのだと思っていた。  子供を作らない選択をする人を否定するわけでもなく、子供ができない人のことも知っていた。だけれど私は当然として、それでも"私は"子供を作るのだろうと、そうして親子で暮らすのだと思い込んでいた。  親はそんなに求めていたかしら。友達はみんな子供を作っていたかしら。そんなことはなかった気がするけれど、まるで絵は白紙に描くものだと決まっているかのように、下地として子供が存在していた。  優しいあいつは、確かに私に言ったのだ。子供はいなくてもいいと。  信じられなかったの。いや、そもそも私が否定していたのかな。あいつの言葉をではなく、"子供がいない家族"というのを否定していたのかな。  自分自身に追い詰められていることは感じていた。いっそ諦めたころに妊娠したりするよ、なんて話も読み込んで、「そうよね」って思ったりもしてた。だけど思う裏側ではやっぱり、焦っていた。怖かった。諦められなかった。  だからね、あいつが『男を好きになった』と知った時、ようやく言葉を文字通り受け取ることができたの。  嘘ではなかった。本当に、私と二人だけの生活を、未来を描いてくれていたのねって。  自分が認められた気がした。  別れなければ私はずっと囚われたままだったでしょう。そんな安い言葉を吐いて、私と同じくらい真剣に悩まないのねって責めたはず。胎に子を成さない男だから、わかりゃしないんだって。絶対子供を欲しいはずなのに、それを作れない私を本当は悪く思っているんだろうって。  だけども実際に子供を産めない男を好きになったというんだから、安心だってするわ。  愛されていたのは、子供を産む予定(・・)の私ではなかったのね。  ――ただの、私だったのね。 [終わり]
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