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私と来希、たった二人で過ごしているこじんまりとした家は、街の外れにある。元は来希が一人で暮らしていた家だ。来希らしく落ち着いた外装のこの家は、いつも私たちを温かすぎる灯りが「おかえり」とでも言うように出迎えてくれる。
ふと隣を見ると、灯りというよりも明るさ自体に慣れていないのか、ものすごく眩しそうにしていた少年がいた。
―灯りの温かさを知らないのかな、、?
「電気がついていると安心できて、いいでしょ?」
『ようこそ』とでも言うように来希が、私たち…主に少年が来たことを歓迎するように、ドアを開けて家の中へ導いているのを横目に、少年が灯りを見て少し頰を緩ませたのを私は見逃さなかった。
―…よかった、家に灯りがついて明るいことの良さが少しは伝わっているみたい、嬉しいなぁ…
「あ!そうだ忘れてた!」
少年が家の中に足を踏み入れるのを待つつもりでいたのに、私は先に家の中に入ってしまう。
そして、来希をあの場に連れて行く前に考えていた"筆談"をするための道具を、まだ家の中に入れていない少年の手に握らせた。
少年は、またもやきょとんとした顔をしながら、『なに?』とでも言うように少し首を傾げていた。
「これに名前、書いて!」
…少年は、私が渡した小さい紙と短い鉛筆を持った手に視線を落としてしまった。
そして…
『わからない。』
渡された紙にはそう書かれていた。
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