大丈夫。

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「…名前ないの?」 『そうだよ』とでもいうように、目の前の少年はうなずいた。 「…」 私は黙ってしまった。きっと無意識のうちにうつむいてしまっていたのだろう。心配そうな顔をした少年が私の顔を覗き込む。 ―この子は、私よりきっとひどいことをされてきたんだ…私は仮にも名前はあった。くれた人が、呼んでくれた人が、いてくれた…。でもこの子は…呼んでくれるどころか、名前さえももらえていないとしたら、、 私は泣きそうになるのを抑えて、声を絞り出して、少年に紙をもう一度渡しながら 「…今まで、なんて呼ばれてたの…?」 そう聞いた。 そして顔を上げることをできないまま、少年の返事を待ちながら、どうにか泣きそうになるのをこらえる。 『〔クソガキ〕〔役立たず〕…ほかにもいろいろあるよ。』 …再び渡された紙にはそう書かれていた。 いつの間にか隣にいた来希も覗き込むようにして、紙に書かれた…私が書かせてしまったこの文字を、読んでいた。 そして来希は、少年を抱きしめていた。 少年が大人に対して怯えていること、怖がっていることを知りながらも、来希は衝動的にそうしてしまったんだろう。 そして来希に抱きしめられた、名前のない少年の顔は見えなかったけど、泣いていた。来希にすがるように、泣いていた。 それにつられるように、みんなで、声を出して、たくさんたくさん、落ち着くまで、泣いていた―。
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