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彼女と出会ったのはある神社だ。
鳥居を抜ければ石畳を敷き詰めた道が、がどっしりした構えの拝殿まで延びている。
誰とも目を合わせないよう俯いて歩き、お賽銭箱の前にたたずんで申し訳に手を合わせる。一応礼儀としてやってるだけで心は入ってない。
神様はあんまり信じない。よそ見ばかりしているから。
拝殿を回り込んで裏へ行くと、そこからさらに奥へ細道が続いていた。こちらは人気がなくて寂しい。周囲には木が鬱蒼と生い茂り、昼なお暗い日陰ができている。
かくれんぼで忘れられた子がいそうな場所だな、と素朴な感想を抱く。子供の頃、私は最後まで残される子供だった。必ず皆においてかれる鈍くさい子だった。
だから、拒めなかったのだろうか。
ヒンヤリ陰った道が至る場所には小さな祠があり、あどけない顔のお地蔵様がたたずんでいた。赤い涎かけが鮮やかだ。祠には子供用のジュースやぬいぐるみに人形、沢山のおもちゃがお供えされている。
お供え物に埋もれたお地蔵様と相対し、今度こそ心をこめて手を合わせる。
おやすみなさいなんていうのは自己満足だ。あの子が安らかに眠れるはずがないじゃないか、私が殺したんだから。
コツリと音が響く。硬質なヒールの靴音に振り向けば、三十後半とおぼしき綺麗な女性が立っていた。神社にはちぐはぐなパンツスーツを着こなし、見るからにデキるキャリアウーマンといった印象……私とは縁のない人種だ。
ボーイッシュなショートヘアが卵形の輪郭と整った目鼻立ちを引き立てている。
「ごめんなさい、驚かせちゃった?」
「……別に」
「お隣いいかしら」
「ええ、まあ、はい。お好きにどうぞ」
変な人。
ここがどこか知った上で先客に声をかける神経は理解に苦しむ。
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