透ける下心

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見る見るうちに黒い雲が空を覆い、雷と共に雨が降り出した。風が強く、傘をさすと壊れてしまうかもしれない。ちょうど講義が終わったところで、帰ろうとしていた学生たちは空に向かって文句を言っている。 通り雨だよ、ちょっと待ったらきっと止むよ。そんな声も聞こえてくる中で、岡崎が校舎の外に出ようとしていた。見たところ傘は持っていないし、レインコートを着る様子もない。 「岡崎、お前帰るの?」 思わず遥希(はるき)は声をかけた。 岡崎がぼーっとした顔で遥希を振り返った。 「あ、遥希くん。お疲れさま」 「おう、お疲れ。今めっちゃ雨降ってんぞ。ちょっと待ったら?」 んー、と言いながら岡崎は昇降口から空を見上げた。 「待ってたら止むの、これ」 「さっき天気のアプリ見たら10分後には落ち着くって」 んー、と岡崎は空を見たままだ。 遥希は空を見て、時々ちらりと岡崎を見る。 「そっかぁ。でも早く帰りたいなぁ」 岡崎の家は、学校からバスだと20分の距離だが、歩くことが好きなので1時間ほどかけて登下校しているらしい。10分後にこの夕立はおさまるようだが、雨が完全に止むわけではない。 「なに、なんか用事あんの?」 「ううん、早く帰って寝たいだけ」 「だったら……ずぶ濡れになって風邪引きたくなかったら、ちょっと待てって」 そう言う遥希の方を見ると、岡崎はふんわりした笑顔を見せた。たんぽぽの綿毛のように、柔らかい髪が揺れる。 「ふふ、遥希くん、お母さんみたい」 分厚い雲のせいで辺りは暗い。そんな中で、岡崎はきらきら光って見えた。 「優しいね」 激しい雨音も、すぐ上空で鳴っている雷も、学生たちの賑やかな声も、すべてが遠ざかっていく。遥希は自分の意識や感覚のすべてが、岡崎に吸い込まれていくような気がした。 「……遥希くん?」 はっ、と息を飲んだ。 「あ、いや。俺も講義で疲れてて、ちょっと眠いかなぁ、って」 うふふ、と岡崎は笑った。 遥希の胸が、ぎゅっと痛くなる。 「あのさ」 「うん」 「俺ん()、こっから近いから、来ない?」
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