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荷物を置くと、案内の女性は微笑みながら部屋を出て行った。
杏里は肩から掛けていたショルダーバッグを壁際のデスクに置いて、部屋の中を見て回った。
今回はホテルステイを楽しむために、少しグレードの高い部屋にしていたので、入ってすぐの部屋はリビングとなっていて、ベッドは隣室のようだ。
白を基調にした壁には、深い青で植物の蔦のような模様が描かれた、縦長のアートパネルがいくつも連なって掛けられている。
楕円形のテーブルの周りに、透かし彫りの背もたれがついた素敵なチェアが2つ。向かいの壁にはテレビがはめ込まれていて、その向かいに杏里がすっぽり埋もれてしまいそうな大きなソファがあった。
ベッドルームに行ってみると、白と青のカバーが掛かったダブルベッドと、深い青の大きなソファがふたつ。ドレッサーもあった。
その奥がバスルームで、シャワーだけでなく楕円の白いバスタブが置かれている。
近くに窓が付いていて、バスタブに浸かりながら、海が見える趣向だ。
どの部屋にしようか迷った挙げ句、決め手になったのがこのバスルームだった。
リビングに戻り、テーブルの上に置かれたウエルカムフルーツを見てみる。
白いお皿にカットされたオレンジやキウイ、賽の目に切られたマンゴー、パイナップルなどが乗っている。
そういえば、と食器棚の下に付いていた冷蔵庫を開けると、こちらにもノンアルコールのウエルカムドリンクが入っていた。
前に旅行した時に気に入っていたピンクグレープフルーツの炭酸水を取り出し、棚の上からグラスを出して注ぐ。
チェアに座ると、さっそくオレンジに手を出した。
4泊5日の旅行先に、南半球にあるこの国を選んだのは、非日常を満喫するためだ。
なので、グアムやハワイみたいな近場ではなく、あえて飛行機で7時間かかるところを選んだ。
ここには以前、女友達と安いツアーで来たことがあって、主な観光地はもう回ってあったから、今回のメインは観光ではなく、このホテルを満喫すること。だから部屋もダブルにしてあった。
そうすると、ホテル内で利用できるサービスが増えるからだ。
以前、女友達と泊まったホテルはもっと小さなところで、観光の途中にこのホテルを眺めながら「あんないいホテルに泊まってみたいね」と話していた。
そのホテルに来ちゃったんだな、それもひとりで、と思うと、杏里の心はちょっと心が震えた。
でも今回の旅は、これまでの自分の殻を破る旅、それなりに貯めていたお金を存分に使って、素のままの自分を取り戻そう、と思っていた。
新鮮なフルーツをつまんで、グラスを持ったままソファに移動する。これからの時間をどう使おう、と考える。
窓の外を見ると、時間はゆっくりと夕暮れに向かっている。
さっきフロントでもらったホテルの案内を見ながら、隣のショッピングモールを覗きに行こうかな、それとも海までどのくらいあるか、歩いてみようかな、と、思いながら、ソファに全身を預けて力を抜いた。
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