2日目

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夕暮れ時、プールサイドに出て行くと、あちこちに置かれたリクライニングチェアやテーブルを囲んで、宿泊客が思い思いの様子で楽しんでいた。 浮き輪につかまって浮いている客もまだ数人いたけれど、ほとんどの人は水着ではなかった。 Tシャツやアロハシャツに短パンの人が多い。 夫婦やカップル、女性グループもいた。日本人かな、と思うと韓国語だったりする。 それが、今の杏里には心地よい。誰にも干渉されない、ひとりの時間を満喫しているような気になれる。 朝、ひと泳ぎしてから部屋でのんびりして、午後は予約してあったスパへ行った。 柑橘系のアロマが漂う部屋で、足先から肩口までマッサージしてもらい、あまりの気持ち良さにうとうとしてしまったくらいだ。 一日空けて、今度はフェイスを中心に上半身をやるコースを予約してしまった。 昼間の暑さが少し和らぐこの時間、水辺で軽く飲んだり食べたりできることから、プールで遊ぶ客とは違う、ちょっと上の年齢層が部屋から出てきているようだった。 先に何か飲み物を買ってから、空いているチェアのどこかに座ればいいか、と思って、プールの入り口に近いところにあるショップの列に並ぶ。 前には数人の客が並んでいた。 「4021の方ですよね?」 後ろからそっと囁く声に振り向くと、昨日、エレベーターで一緒になった小柄な男性? 少年?が微笑んでいた。 やっぱり、声変わり中の高校生のような声だ。 ルームナンバーを肯定していいかどうか迷っていると、その迷いを察したように「僕、隣の部屋です」と囁いてくる。 まあ、バレてるよね、入室するところ見られたし…と思った次の瞬間、声が出ていた。 「えっ? 日本語?」 この2日間、ホテルの中でほとんど日本語を聞かなかったから、意外に思ったのだ。 「ああ、あの時は日本語じゃなかったですね」と言って、少年のような顔でにこにこしている。 「もし良かったら、ご一緒させていただいてもいいですか? 飲み物はなにを? 奢ります」 彼は杏里より前に出て、自分のらしいアルコールを頼んでいる。そっちは英語だ。 杏里があっけにとられているうちに、ちょうど前の人が品物を持ってカウンターを離れていった。 彼は杏里を振り向いて、何にしますか?と目で聞いてくる。 学生みたいに見えるのは髪型のせいもあるな、と杏里は思う。 耳に沿ってカットされた髪、トップは少し長めで、軽くパーマでもかけているように、彼の動きに合わせてふわふわ揺れる。 「じゃあ、これを」と、カウンターに置かれたメニューの写真から、コークハイらしいグラスの写真を指差す。 プールサイドなので、あまり度数の高いものは置いていないらしい。 彼はそのあと、なにか他のものも頼んでいる。彼のそんな様子を、杏里は斜め後ろからなんとなく眺めていた。
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