2日目

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彼は首を傾げて、何でしょう?という顔をする。 女子のような小顔の、整えられた濃い眉だけが精悍な感じを演出している。 改めて見ても、髭の影もない肌と小さい口、多分「子犬のような」と言われそうな丸い可愛い目。 そうか、世の男性は、卵型に耳から下が長くなるから大人の顔になるのか、と思ったりする。 「慧さんって、おいくつですか?」 年下なら、そういう話し方にしようと思ったのだ。ここは日本じゃないんだから… 「あぁ、僕ですか? 31です」 えっ、と思わず声が出てしまった。 「上でしたか? 下でしたか?」 どうやらいつも聞かれている質問だったらしい。そう聞きながら少しにやついている。 杏里はちょっと悔しくなって、答えに悩む。 考える素振りで、コークハイを口にする。 「…1990年生まれ?」 「そう、5月ですけど…もしかして?」 仕方ない、ここで嘘をついても…と杏里は正直に言うことにした。 「一緒です。私は1月。だから学年はひとつ上ね」 「そうなんだ。やった! じゃあ、タメ(くち)でいいですか?」 こんな旅先で敬語でもおかしい。杏里は笑って頷いた。 「じゃあ、僕のことは慧って呼んでください。僕も杏里って呼んでも?」 一応頷いておく。 「年齢詐称じゃないですよね?」 冗談に聞こえるように聞いてみる。 「よく言われるけど、本当なんです。中学くらいからほとんど成長しなかった、背も声も。高校に入ればきっと伸びるよって言われてたのに」 彼が心底、悔しそうにそう言うのを、笑って聞いていた。可愛い。 「でも、僕の両親も祖父母も比較的小柄だから、仕方ないんだ。兄貴だけはなんとか170までいったんだけどね」 「多分だけど、160超えたくらいだよね、身長」 「そう、162。杏里も同じくらいでしょ? さっき並んだとき目線が近かったから」 「うん、160超えたくらい」 せっかくなので、カットされたキウイフルーツをいただくことにする。熟した黄色の実がみずみずしくて美味しい。 「あの時、一緒だったのは彼女さん?」 まあ、言ってみればこれは牽制だった。男の部屋に女性を入れてるのを見ているのだから、そういう扱いをするよ、という意味の。 「え? ああ、義姉さんのこと? エレベーターで会った時のことなら」 「お姉さん?」 「そう、6つ上に兄がいるんだ。今、仕事でこのホテルに来てて。 彼女は旅行がてら兄さんと一緒に来てるんだけど、兄さんの仕事中はひとりだから。どこか案内するよ、って言うことになって。僕の部屋でパソコン見ようか、と」 …そうなんだ。じゃあレストランで見たときに、向かいに座ってた男性のどちらかがお兄さんってことかな。
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