3日目

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3日目

のんびり朝寝をして、ロビーの脇のカフェでブランチを食べる。 焼きたてのクロワッサンをいただきながら、予定のない今日をどう過ごそうか、と考えた。 パリパリと音のしそうなクロワッサンの層を、時々剥がしてみたり、そのままサクッと味わったりしながら、海辺の方へ行ってみようと思いつく。 オレンジとレモンの生ジュースを飲みながら、ふとフロントの方を見やると、チェックアウトの列ができている。 …そう言えば今日は月曜日だっけ。 本当なら、もう出社している時間だ。でももう、自分には行く場所がない。 もし今、日本にいたなら、それは耐えがたい喪失感だったろう。 思い切ってひとり旅に出てきた自分の頭を、よしよしと撫でてやりたくなった。 入社後数年して、仕事に慣れ、人に慣れ、落ち着いて日々が送れるようになった頃は、この仕事が一番自分に向いている、他の仕事はできそうもないな、と思ったこともあった。 でも今なら、別にスポーツ関係の会社でなくても、企画制作の仕事でなくても、その気になれば何でもできる、という気持ちになっている。 でもできれば、書類に向かいっきりの仕事ではなく、何かを生み出す仕事に就きたい。 それかいっそ、スポーツジムなどのインストラクターはどうだろう、という思いもある。 身体を動かすのが好きだし、選手時代、身体を維持するための栄養管理の大切さも実感している。 今の体型を維持するための、適度な筋力トレーニングにも興味がある。 運動不足の社会人向けトレーニングとか、どうだろうか、と思う。 …毎日、少しは身体を動かさないとだし。 プールに行くと、つい泳ぎたくなってしまう。 それに、水面に反射する紫外線は結構な量になるので、顔などの日焼けが気になるのだ。 …やはり泳ぐなら、朝か夜でないと。 そう思ってカフェを出ると、部屋に戻って外出の支度をする。 モスグリーンのぴったりしたTシャツに、白地にリーフ柄のサロペット。 涼しくて柔らかく、スーツケースの奥に入れてもシワにならない、旅行に最適の素材だ。 白いサンダルを履いて、つばの広い帽子を手に、いつものバッグを肩に掛けて部屋を出た。 エレベーターで下まで降り、ホテルの裏側に出られるドアを潜り、プールを横目にしばらく歩くと、ホテルの駐車場に入る。 ずらりと並んださまざまな国のクルマたちの間を抜けて敷地を出ると、二車線しかない細い道路を横切る。 そこまで行くと海が近くなり、背の高い木が立ち並んだ緑地帯が、海沿いにずっと続いていた。 海は防波堤の影になって見えないけど、ところどころにベンチがあったり、コンクリートの上に座って休んでいる人もいる。 左右の緑地帯の中に、細い小道が伸びている。日陰になってちょうどいいので、そこをゆっくりと歩き出した。 道を左に向かって200メートルほど歩くと、ちょっとした露店が並んでいるのだ。 時々、自転車に乗った人がすれ違ったり、犬を連れた人が歩いてきたり、杏里と同じように、のんびり散歩しているご夫婦もいた。 所々に広場があって、いくつかのベンチに、カップルやファミリーがくつろいでいる。 …あんなふうに、穏やかな恋人時間が過ごしたかったな。
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