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…西森慧、不思議な人だ。
最初から人懐っこくて、離れていた従兄弟に会ったような、幼なじみと久しぶりに再会したかのような、妙な安心感があった。
大人の男性を意識させない見た目と、あの声がそうさせるのかな、と杏里は思った。
水着姿を見られたらしいので、何となく距離感を正常に保つことができてないように感じる。
…彼は今日、どこに行ってたんだろう。
日陰を作っていた木々が途切れて、緑地帯が終わると、海がぐっと近くなる。
ずっと続く防波堤の前に、簡易的な屋根が立てられ、いろんなお店が出ている。
アロハシャツや綿のワンピース、サンダル、帽子、アクセサリーもあった。
反対の街側には、軽食や飲み物を売っているお店が並んでいる。
どの店も、窓から外にカウンターを出して営業している。テーブルや椅子が置いてある店もあった。
ハンバーガーやホットドッグみたいなものから、肉を焼いたもの、ポテトや揚げたはんぺんみたいなもの、いろんな色のジュース、ドーナツショップもある。
手にしていた帽子を被り、向かい合った店の間を、他の観光客に混じってゆっくり歩く。
十店ほどの店が途切れたところに、ポストカードが並べられ、水彩で絵を描いている髭のおじさんがいた。
退職した後、好きだった絵を描いて楽しんでいる、みたいな人だった。
おじさんの向かいに女性が座っていて、色紙大の紙に似顔絵を描いている。
慣れたタッチで筆を走らせ、あっという間に仕上げていく。
杏里は向かいにカフェがあるのを見て、そこで何か食べることにした。
大ぶりのカップに入ったカフェラテと、ふっくらと厚いパンケーキを買い、大きく開けられた窓辺のテーブルの一つに座る。
絵描きのおじさんは、乾いたらしい似顔絵を客の女性に渡し、料金を受け取ると握手している。
すると今度は、横で見ていた男性が椅子に座り、また絵筆を動かし始めるのを、路地を挟んだ反対側から眺めていた。
その後も、店内にあった観光名所の写真集をめくって見たり、窓から見える波の動きを楽しんだりして、涼しい屋根の下でのんびりと時間を過ごした。
一時間ほど経って店を出ると、似顔絵のお店に客はいなかった。
絵描きのおじさんが、出てきた杏里を見て、こっちにおいで、と手招きをする。
なんだろう、と寄っていくと、はがき大の紙を渡してくれた。
そこには、鉛筆でデッサン風に、女性の上半身が描かれていた。
顎のラインで切りそろえた髪、Tシャツの上にサロペットの肩紐、右手にカフェオレのカップを持っている。
…私だ。
彼が、「可愛い女性だから、プレゼント」と言っているのが分かった。
お礼に、並んでいたポストカードの中から、海辺の風景を書いたものを数枚買った。
いつも旅行に行くとポストカードを買うので、帰りに買うつもりだったのだ。
一枚一枚が手書きだから、これは貴重な物だな、と思う。水彩のタッチも素敵だ。
お礼を言って、来た道を戻り始める。
それでちょっと、気持ちが上がっているのが分かった。
…夜、遅くなってからプールに行こうかな。
昼間は結構な陽射しなので、夜もそれなりに暑いだろう。
ここ数日は、クーラーまではいらないけど、窓を開けたままで寝ていた。
観光客もまばらなので、あちこちのお店から声を掛けられるのを適当に交わしながら、来るときに気になっていたアクセサリーの店の前に立ち止まり、さりげなく品定めをする。
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