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手前には、色とりどりのカラーコードに石が通されたブレスレットが並んでいて、その奥に、自立式の金属ネットにひっかけるようにして、ピアスとネックレスが並んでいた。
多分だけど、高級店で扱われそうもない、変形した石や輝石のかけらなどを使ってあるらしい。
ちょっと上手な素人さんの手作り品、みたいな感じだ。
露店で売っているものだから、作りは微妙だけど、気楽に買える値段なら思い出に買ってもいいな、と思っていた。
それぞれの品物の下に、手書きで値段が書いてあり、下に行くほど高くなっている。
気になったのは、一番下の列にあった、透明な石が銀細工で包まれた植物の蕾のようなピアス。
ピアスホールに通す部分は、細い金属を曲げただけの単純な作りで、そこから2センチほどの細いチェーンが伸びて、モチーフに繋がっている。
開きかけの薔薇の蕾のような形で、萼の部分がシルバー、透明な卵型の石が半分くらい包まれていて可愛らしい。
アロハシャツを着たお店のおじさんらしき人が、身振りで「どれがいいか?」と聞いてくるのを、これ、と指さすと、盗難防止用のコードを切って、ネットから外して見せてくれる。
透明な石はガラスではなく、何かもっと硬いものだ。
…ダイヤ? まさかね。
値段は日本円で3,000円くらい。露店にしては高い。
石が外れて落ちると嫌だなと思ったけど、萼の部分が細い葉っぱみたいに伸びて包んでいるので、大丈夫そうだ。
旅の思い出だし、気に入ったからいいや、と、それをおじさんに手渡すと、小さな袋に入れてくれる。
財布からお金を出して渡そうとすると、なぜか首を振られた。
なんで?と首を傾げると、おじさんは値段の文字を指で差す。
そこには、上から下がっていたじゃらじゃらしたピアスに隠れるようにして、もう一桁数字が書いてあった。
あぁ、しまったな、よく確認しなかったから、と思って、いらないと手を振り、お金を財布に戻すと、おじさんは、何か熱心に言ってくる。
少し値を下げるから、と言っているみたいだけど、標準的な英語に聞こえず、よく分からなかった。
いらない、と手を振って店の前から離れようとすると、手首を掴まれてしまった。
…私が不当に値下げを要求しているように見えるのかな。
思っていた値段より高かった時点で、買う気がなくなったのに困ったな、と思い、知らない人に手を掴まれているのも怖くて、腰が引けてしまう。
「どうしたの?」
ふいに声がして、反射的にそっちを見ると、さっきクルマですれ違ったはずの慧が隣に立っていた。
「あぁ、良かった。あのね、ピアスを買おうとしたんだけど、思ったより高かったから、いらないって言ったの。でも分かってくれなくて」
「そうなんだ」
そういって彼は、店のおじさんに話しかける。
そうすると店主はなぜかムキになり、強い言葉で言い返している。割り込んで来るな、と言っているように見える。
それで慧が何か言うと、慌てて杏里の手を離した。
「行こう」
そういって杏里の肩に手を添えると、早足で歩き出した。
「最後、なんて言ったの?」
「客の手を掴むのは犯罪だから、警察に通報するって言ったの」
「良かった。急に掴まれたからびっくりしちゃって」
「上客だと思われたんだろうね。逃がしたくなかったのかな」
マーケットが切れて、緑地帯の入り口まで来ると、慧は立ち止まった。
「大丈夫?」
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