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先客の後に続いて、案内の女性が軽く会釈をしながら乗り込んで行ったので後に続く。
箱の奥の端と端に立ちながら、杏里は見るともなしにその2人を見ていた。
最初は姉妹か女友達かな、と思ったけど、一人は男性だった。
少し高さのあるサンダルを履いた女性より、男性の方が小柄で、声もアルトに聞こえたからだ。
でも、耳を出したヘアスタイルの後ろはすっきりと短く、眉もそれなりに太く、喉元に男性特有の証があった。
身長の割に肩幅もあるけど、身体の厚みはあまりない。腰から下のラインはすっきりと細く、やはり少年みたいだ。
二人はどうやら、中国語らしい言葉で喋っている。
女性の方は、リゾートらしく臙脂色のコットンワンピース。
男性の方は、白い襟付きシャツに黒い細身のパンツ、黒のショートブーツ。
シャツの襟と左胸に、燕らしい刺繍があるのがお洒落だ。
袖がふわっと膨らんだパフスリーブになっている。
…可愛いシャツだな。男子でもああいうの着るんだ。
それもリゾートだからか、と思い直した。
こんなに暑い日でも長袖なんだから、空調の効いた室内にいる人なのだろう。
ここは最上階が4階だ。横に長い建物だから、上に伸ばす必要がないのだ。
チンっと音がして扉が開くと、案内の女性が先に立ってスーツケースを引き、箱を出る。
手で方向を差しながら、廊下を案内してくれる。
4021と書かれた扉の前に立ち、彼女がカードキーをかざすとドアが開いた。
その時、一緒にエレベーターに乗っていた男女が、隣の扉の前まで来て、ドアを開けようとしているのに気づいた。
…隣の部屋なんだ。
杏里がチラッとそっちを見ると、カードキーを持った男性? 男子?と目が合ってしまった。
案内の女性がドアを開いて先にどうぞ、という仕草をしたので、彼女はさりげなく目線を外して部屋へと入って行った。
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