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ひと息ついたあと、杏里は貴重品だけを入れたミニバッグを手に部屋を出た。
エレベーターで一階まで降り、ロビーに足を踏み入れる。
カウンターには、チェックインする人の列ができていた。
その列の後をゆっくり歩きながら、ホテル内の様子を観察する。
改めて見ると、このホテルのロビーはかなり広い。天井が高く、柱が太い。
もしかしたら、視覚効果で広く見えるように作られているのかもしれない。
一足だけ持ってきていたヒールの踵が、コツコツと音を立てる床は大理石なのかな、と思う。
今夜の夕食は、チェックインしたときに上のレストランを予約してもらっていた。
それで、少しホテルの中を歩いた後、そのままレストランへ上がっていくつもりで、ミディアム丈のワンピースに着替えていた。
白い無地のワンピース、黒のベルトできゅっとウエストを絞り、ベルトの端はそのまま垂らしてアクセントをつけてある。
上品さを維持できる適度な開きのラウンドネックに、黒の縁が付いているだけのシンプルな五分袖だ。
リネンライクの生地は、本物の麻と違ってシワになりにくく、歩くとスカート部分にも少し表情が出るので気に入っていた。
さっきまでの、ノースリーブにダメージジーンズの人とは別人に見えるかも、と杏里は内心で小気味よく思った。
ロビーの先にはカフェがあり、30席ほどのうち8分くらい埋まっている。
目を引いたのは、豊富な種類のジュースバー。
果物が豊富な国なので、とても新鮮で美味しそうだ。
そのうち入ってみよう、と思いながらカフェのパーティションに添って歩き、連結された入り口から、ショッピングモールへと入っていった。
こちらは、よくある免税店の大きなところ、といった感じだ。
日本でもよく見かけるブランドのショップが、楕円状にずらりと並んでいる。
楕円の中心には噴水があって、その周りにはベンチが置かれている。
ホテルの宿泊客だけでなく、外から買い物に来るお客さんもいるので、そこそこ賑わっていた。
その上は吹き抜けになっていて、2階にも同じように店が並んでいるのが見えた。バッグや香水、衣類、お土産物のショップもある。
杏里は、ある店の前で足を止めた。
目の前のショーケースに、アクセサリーが並んでいる。
一年ほど前にピアスホールを開けたのだけど、ずっと素材重視、仕事に行くときも使えるタイプばかりだったので、できれば可愛いのが欲しいな、と思っていた。
手持ちが直線のスタッドピアスばかりなので、フックタイプのもので、ちょっと長めのぶら下がりタイプで、と思いつつ、できればダイヤが一粒、とか思うとそれなりの値段がする。
帰るまでにちょっと考えよう、と並んでいる物のデザインと値段をさらっと下見して、店の人に声を掛けられないうちにそこを離れた。
最終日までにお土産を買わなければ…。
仕事を辞めたばかりで、そっちの付き合いは減ってるから、親しい友達とお母さんくらい。
それぞれの顔を思い浮べながら、誰に何を買おう、と、ゆっくりと店を巡った。
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