1日目

4/8
289人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
ひと息ついたあと、杏里は貴重品だけを入れたミニバッグを手に部屋を出た。 エレベーターで一階まで降り、ロビーに足を踏み入れる。 カウンターには、チェックインする人の列ができていた。 その列の後をゆっくり歩きながら、ホテル内の様子を観察する。 改めて見ると、このホテルのロビーはかなり広い。天井が高く、柱が太い。 もしかしたら、視覚効果で広く見えるように作られているのかもしれない。 一足だけ持ってきていたヒールの踵が、コツコツと音を立てる床は大理石なのかな、と思う。 今夜の夕食は、チェックインしたときに上のレストランを予約してもらっていた。 それで、少しホテルの中を歩いた後、そのままレストランへ上がっていくつもりで、ミディアム丈のワンピースに着替えていた。 白い無地のワンピース、黒のベルトできゅっとウエストを絞り、ベルトの端はそのまま垂らしてアクセントをつけてある。 上品さを維持できる適度な開きのラウンドネックに、黒の縁が付いているだけのシンプルな五分袖だ。 リネンライクの生地は、本物の麻と違ってシワになりにくく、歩くとスカート部分にも少し表情が出るので気に入っていた。 さっきまでの、ノースリーブにダメージジーンズの人とは別人に見えるかも、と杏里は内心で小気味よく思った。 ロビーの先にはカフェがあり、30席ほどのうち8分くらい埋まっている。 目を引いたのは、豊富な種類のジュースバー。 果物が豊富な国なので、とても新鮮で美味しそうだ。 そのうち入ってみよう、と思いながらカフェのパーティションに添って歩き、連結された入り口から、ショッピングモールへと入っていった。 こちらは、よくある免税店の大きなところ、といった感じだ。 日本でもよく見かけるブランドのショップが、楕円状にずらりと並んでいる。 楕円の中心には噴水があって、その周りにはベンチが置かれている。 ホテルの宿泊客だけでなく、外から買い物に来るお客さんもいるので、そこそこ賑わっていた。 その上は吹き抜けになっていて、2階にも同じように店が並んでいるのが見えた。バッグや香水、衣類、お土産物のショップもある。 杏里は、ある店の前で足を止めた。 目の前のショーケースに、アクセサリーが並んでいる。 一年ほど前にピアスホールを開けたのだけど、ずっと素材重視、仕事に行くときも使えるタイプばかりだったので、できれば可愛いのが欲しいな、と思っていた。 手持ちが直線のスタッドピアスばかりなので、フックタイプのもので、ちょっと長めのぶら下がりタイプで、と思いつつ、できればダイヤが一粒、とか思うとそれなりの値段がする。 帰るまでにちょっと考えよう、と並んでいる物のデザインと値段をさらっと下見して、店の人に声を掛けられないうちにそこを離れた。 最終日までにお土産を買わなければ…。 仕事を辞めたばかりで、そっちの付き合いは減ってるから、親しい友達とお母さんくらい。 それぞれの顔を思い浮べながら、誰に何を買おう、と、ゆっくりと店を巡った。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!