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結局、それで打ち合わせ会議も切られてしまった。チームも解散し、また他の仕事が始まっていく。
杏里はそれから、独善的な課長の下で働くことや、想いを共有できていると思っていた部署のメンバーが、一瞬で保身に走ったように見えて、ここで働くことへの意欲を低下させていた。
「それだけじゃない。私、ファミリー部門へ異動してほしい、と打診されたんだよ。独身で子どももいない私が、ファミリー部門で能力を活かせるはずがないでしょう? 嫌がらせとしか思えない」
「それは、そっちで産休に入る人の代替え人事だろう?
嫌がらせと決まった訳でもないし。杏里ならどこでもやれる」
「……律紀はいつもそう。それは正論かもしれないけど、私が欲しい言葉じゃない。一時でも私の想いを受け止めてくれたなら、まだ続けていけたのかもしれない」
「…どういうことだ?」
「私たちは同僚で先輩後輩だけど、それだけじゃない、特別な関係なんでしょ? 私はいつだって、目の前で起こることを、律紀がどう受け止めるだろうと思って見てた。
マイナスのことが起こったときは、律紀にどう寄り添っていけばいいかって考えた。一番の理解者でありたかったし、一番近くにいる人になりたかった。
でも律紀はそういう人じゃない。いつも自分が正しいと思っているし、それを私に受け入れるように言う。
私が傍にいてほしいのは、一度はありのままの私を受け止めてくれて、それでもうまくいかないところは、一緒に考えて、乗り越えていこう、と言ってくれる人よ」
「そんなふうに思っていたのか」
「もちろん、最初から望む関係が作れるとは思っていなかった。私にだって、直さなきゃいけないところはあるし。
でも付き合っていくうちに、だんだんとお互いを認め合って、譲り合いながらずっと隣にいて欲しい人になれるんじゃないか、と思っていたわ。
でも、律紀はそういう人じゃなかった…」
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