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2日目
瞼の裏に明るい光を感じて、杏里は目を覚ました。
薄く瞼を開けてみると、カーテンの隙間から光が差し込んでいる。
…せっかくの遮光カーテンなのに、きっちり閉めなかったんだな。
夕べは、白い楕円の素敵なバスタブに、甘い香りのするバスボムを入れたのに、頭の中は律紀のことばかりが浮かんできて、少しも気が晴れなかった。
映画のヒロインが着るようなバスローブを羽織ってリビングに戻ると、冷蔵庫にあったカクテルの瓶を開けてしまい、そのままベッドに倒れ込んだような気がする。
枕元にあるデジタル時計を見ると、朝の5時を回ったところだった。
幸いにして二日酔いでもなかったし、喉が渇いていたので、ベッドから起き上がり、壁際のテーブルに置いてあったミネラルウォーターを開けた。
窓辺に近づいてカーテンを開けてみると、明るい陽光がきらめいている。
木々の向こうに、プールの青い水が見える。
…よし。
杏里はベッドルームに戻ると、スーツケースから白い水着を取り出した。
ビキニより少し布地が広いセパレートタイプで、一部丈のパンツの上には、同布で短いラップスカートが付いている。
細い肩紐から続くバスト部分はビスチェに似せてあって、南国なら、このまま街を歩いても違和感のなさそうな形だ。
去年の自分の誕生日に、仕事で関わりのあった業者さんに頼んで、自分が着たい形と素材で作ってもらったものだ。
手首と足首を少し回して、身体のコンディションを確認する。
上に薄手のパーカーを羽織り、サンダルを履くと、タオルを持って部屋を出た。
実用性重視のゴムバンド型の鍵を左手首に巻きながら、エレベーターで一階に降り、回廊の途中にある出口から外へと出た。
細い小道を歩いてプールへと足を向ける。
大きな円と小さな円がひとつずつくっついたような、広いプールサイドを歩いて行く。
まだ朝早いので、プールの中にも外にも、誰もいない。
パーカーを脱ぎ、パラソルの下の椅子に軽く畳んで乗せると、プールの縁に腰掛けて、足を水に入れた。
…こんなに広いプール、どうやって水を替えているんだろうな。
距離を置いてあちこちに設置されている吐水口から、常に水があふれている。
昨日、遠くから見た感じでは、カップルやグループで遊んでいる人が多く、本格的に泳いでいる人はいなかった。
…まあ、リゾートホテルだから、そんな人は返って目立つんだろうけど。
そんなふうに周りを眺めながら、しばらく足で水を掻き回す。
まだ気温は26度くらいだろうか。でもプールの水は温んでいるように感じる。
腰を浮かせてするりと水の中に入ると、肩口まで深さがあった。
そのまま首まで使って、水温に身体を慣らす。
…もう、いいかな?
そう、自分の身体に聞いてみる。
一度浮き上がると、すっと水中に沈んだ。床から離れた足で壁を蹴ると、すーっと潜水して進む。
水が動くと、青い底に光が輪を描いて見える。
顔に水の流れを感じながら、ゆっくりと足を動かし、プールの床に平行に進んだ。
息継ぎをしに水面へと顔を出すと、身体を横向きにしたまま、すーっと泳いでいく。
前に伸ばした右手から、緩やかに水紋が広がっていく。
プールの真ん中辺りで、仰向けに浮いて空を見上げた。
腕と足を少し動かすだけで、沈まずにいられる技術を身につけたのは、小学校6年生の時だった。
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