嫌いな人

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「…大地、こっち来て?」 随分と上の空だ 俺が抱いてやってんのに他のことを考えている 「…こうた、今日反応悪くない?」 「あ…ごめ…」 いらいらする 俺のことが好きなくせに、俺といるときに何を考えてる? 俺のことだけ見てればいい 黙って俺に遊ばれていればいい 柔順に、一途に、俺だけを愛していればいい 「…なぁ、こうた。キスしてやろうか?」 「えっ…」 あぁ、この反応だ ホントかどうか疑ってて、それでも期待を隠せないその目が好きだ 「…ハハッ、嘘だよザーメン臭ぇ」 落胆と羞恥心。その前の、期待や疑い。全部俺だけに見せればいい。 「……る」 「え…ごめん、何?」 「なんでもない」 愛してる そう、伝えそうになった 「なんでもない。こうこう、もう帰っていいよ」 「…うん」 「また明日、ね?」 自分が嫌になる 嫌いなはずなのに、こうたの一挙一動が目につく 引くぐらいの俺への愛情や、その整った顔がどうしようもなく… 愛してやまないその身体も、いつの間にか呼びつける口実になっていた 大地のことが好きだ でもそれは、好きな人がいる自分に酔っていたくて だから、大地をずっと好きだって言ってきた こうたを愛してると思う 身体とか、態度とか、そういうのじゃなくて 「こうたのこと自体が…きっと……」 わかってる 俺は、こうたを愛してる でも、それを伝えたときどうなる? 今の関係は、薄氷の上で成り立っているにすぎない あっちが俺を一方的に好きで、俺があいつを利用する そういう関係だから、もし俺が愛してることがバレたら… この関係は終わる この部屋に呼んで、服を脱がせてその肌に触れて、抱くことも叶わない 伝えない愛し方だってある 関係を絶ってまで愛を伝える気はない だから俺は 「…嫌いだ」 名前は宇野あゆむ 彼女なしのセフレ多数 好きな人は、小原大地 嫌いな人は 自分自身だ
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