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氷の女王に凍らされたある少年の心。
そんな彼を救うべく奔走する一人の少女と、彼女の涙で溶けてゆく氷のトゲ。
彼女のおかげで少年は温かい心を取り戻して、めでたしめでたし。
昔々に読んだ本で、そんな童話があった気がする。
「おれは、自分のココロが凍ってたなんて思ってもなかったんだけど…」
少しずつ。いつの間にか。
気が付いたら溶かされていく、不思議な感覚。
言葉で、眼差しで、仕草で、その存在で…。
全てが春の日差しのように暖かく、時に熱いくらいに遠慮なく踏み込んでくる。
そうして溶かされてから、あぁ、自分はこんなにも気を張っていたのかと思い知っていくんだ。
がんじがらめの縄の中、周りから、或いは自身の過去から、全てから守るために凍りづけにしたモノ。
凍らせたのは氷の女王なんかじゃなくて、自分自身だった。
それをいとも簡単に陽の光の下に引き摺り出した少年は、自分がどれだけのことをしでかしたのかまるで分かっていないようだけど。
暖かな日差しの中はとても心地好くて、安心して、離れがたく、そして怖い。
だって何もかも透けてしまいそうだから。
暗闇に隠していたいものまで見えてしまいそうで、いつもその影に怯えてしまう自分を嫌でも見つめなければならない時があるから。
だけど隣には必ずきみがいて、その毒舌で「またですか」なんて溜め息を吐いて。
呆れたように笑いながらこの手を握ってくれるから、おれもまぁいいかなんて思う。
投げやりな「まぁいいか」じゃないよ。
たぶん、きっと、確証は無いけれどどうにかなるんだろうなっていう意味の「まぁいいか」だよ。「だいじょうぶ」に似た感じかな。
おれはあの少年ではないし、もしココロに刺さった氷のトゲなんてものがあったとしたらそんなもの、ひとつやふたつじゃないだろうけれど。
きみは確かに俺を救っていく。溶かしてゆく。
ひとつずつ、ゆっくりと。だけど本人はそんなこと知りもしないまま。
いつかきみにも分かるだろうか。
分からなくてもいいけれど、分かってくれたら嬉しいな。
一滴の涙を溢すこと。
大人になると、それだけのことがとても難しく感じる時もあるけれど。
その一滴を、固まったココロの欠片を外の世界へ導くだけの力がきみにはあるんだと、知ってくれたら嬉しいなぁ。
彼がおれの髪に口づけを落とすのに気付かない振りをしながら、欲深いおれは今日もこの手を離せない。
きみの優しさに付け込んで、離さないままでいる。
ねぇ、お願いだから…。
きみが思う以上に幼く、なのに狡猾なこんなおれにも。
いつか気付いて欲しい。
ずっと気付かないで欲しい。
そんな矛盾をそっと抱いたまま、全身でその温かさを閉じ込めた。
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