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「手際が良いですね」
「学園を卒業してすぐに弟子入りしましたから、5年経ちました」
「衣装は作るのですか?」
「俺はまだ見習いですからねぇ……。採寸が主です」
「君が作る衣装はきっと素敵でしょうね」
目を細めて感慨深く呟く。デイビッドは恥ずかしそうに、「買いかぶりすぎですよ」頬をかいた。
採寸を終えたデイビッドは道具を宝物のようにしまい込んだ。
「ノア様」
声をかけられたノアは、ジャケットに腕を通しながら顔を上げる。
「またお会いできますでしょうか」
ノアは目を瞠り、やがて優しく笑った。
「君が望むなら」
こぼれそうになった疑問を飲み込んで、デイビッドは退出した。
「お茶をお願い」
扉の前にいた侍従に声をかけると、ノアは椅子に腰かけて本を開いた。
それは異国の童話で、子供が読むような本だった。侍従たちは不思議そうな表情を浮かべたものの、穏やかな笑みを浮かべる主人を見てそっと視線を逸らしたのだった。
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