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  手紙を届けた従者は、そのままノアの返事の手紙を持って戻ってきた。セオドアの手紙と負けず劣らず不愛想な内容だった。   要約すると、結婚前の長期休暇が3日後から始まるらしい。いつでも会うことが出来るといった内容だ。   「随分と協力的なことだ」   セオドアは嫌味を込めて呟き、取り急ぎ返事を書き始める。   「アレには会えたのか」   「はい。手紙を預かっていると言伝を頼んだのですが、その後すぐにルイ様ご本人がいらっしゃいました」   「ほう……」   仕事で城にこもっているというのも嘘ではないらしい。あの洗練された騎士の動きや、皇族に対する忠誠心は生半可なものではないように感じた。   日時と場所を示した手紙を再び従者に持たせ、セオドアは執務を終わらせた。   同じ城内にいるはずなのに、すれ違ったこともなかった。その存在すら知らなかったことに不信感がよぎる。思案する間も騎士たちを見掛ける。同じ服を身にまとう彼らの顔を全員覚えているわけではないが、やはりある程度は記憶に残るものだ。ましてや、ノアは綺麗な顔をした男であった。漆黒の目や髪も珍しい。そんな彼を知らないなんてことがあるだろうか。   皇帝の機密任務のみを遂行する騎士団が存在する。それに所属する騎士の情報は秘匿されていることが多い。家族にも任務や所属隊を明かせない。もしノアの所属がそうであるならば、皇帝に聞くことはできずとも、次期皇帝の兄には相談することが出来るかもしれない。   そうと決まると、セオドアはさっそく上質な便せんを用意して兄への面会を要請する手紙を書いたのだった。
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