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  兄からの返事は早かった。内容も実に完結で「彼について語れることは何もない」とだけ綴られていた。セオドアは困ったように息を吐く。       「どうかなさいましたか」     そう問いかけたのはノアだった。呼び出しておいて別のことを考えていたことを少し申し訳なく思った。件の手紙に記した通りの時間に顔を会わせたセオドアとノアであったが、ほぼ赤の他人の2人の話が弾むわけもなかった。いつの間にか自らの思考に沈んでしまったセオドアのため息は、2人の空気をさらに悪くさせた。        「いや、親睦を深めるつもりだったのだが、そなたと話しているとどうしても事務的になる」     「それは……申し訳ありません」     少し気まずそうにノアは謝罪する。それは初めての表情の変化に見える。     「謝罪してほしいのではない。もう少し気楽に話せないものかと思ったのだ」     返事に困ったらしいノアは、セオドアの顔色をうかがった。困惑の色が漆黒の瞳に現れる。空気を読んだ給仕が紅茶を取り換え、美しい菓子を並べた。     「今すぐでなくともよい……。見たことのない菓子だな」   「せっかくお誘いいただいたので、私が持参しました。異国の菓子ですので、お口に合うか分かりませんが」     わざわざそれを選んだということは、ノアの気に入っている菓子なのかもしれない。初めて得た情報が好きな菓子というのも面白いが、興味を持ったセオドアはそれを躊躇なく口にした。優しい甘みの砂糖菓子のようだ。     「最近手に入れた苦みの強い紅茶に合いそうだな。次回は準備させよう」     さらりと出た次回の約束を、ノアは微笑みで受け入れた。よく見ていなければ分からないほどの、本当に儚い笑みだった。     「花をかたどった菓子なのです。次回は別の花を用意しましょう」     空が橙色に染まり、話すことも尽きたころ茶会はお開きとなった。別れ際ノアは「皇子はどのような花が好きですか」と聞いた。ノアの方から声をかけてきたのはこの時が初めてだった。
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