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「久しぶりだね」
訪れたセオドアを迎え入れたルイは、嫌味を込めたセリフを吐く。
「すまなかった」
「いいの。いろいろと準備で忙しいのは分かってるし」
「機嫌を直してくれ」
ルイの拗ねて膨らんだ頬にキスを落とす。くすくすと笑って「ほんとに気にしてないから」と言った。セオドアに甘えるように腕を絡め、鼻先を肩口に寄せてきた。
「今日は例の方とのお茶会でしょ。どうだったのか気になるな」
「前と変わらない。あまり愛想がある様な男ではなかったよ」
ただ最後に見せた微笑みと、ためらうような問いかけが頭の片隅をよぎる。それをほんの一瞬でも好ましく思ってしまったことに、ルイへの後ろめたさを感じた。
「セバス、セオ様の夕食を頼むよ」
ルイが執事に声をかける。
「ルイ、今日は客室を貸してくれ」
きょとんとした顔をする恋人にセオドアは苦笑を浮かべる
「私に結婚相手が出来てしまった。君の正式な立場を確立できるまでは自重をしないと、不貞を働いたことになる」
「そっか、そうだよね……」
「君には苦労をかける。すまない」
食卓に並べられた料理は、城で出されるものに比べたら質素だが、セオドアにとっては慣れ親しんだ味だった。そんな料理を口にしている間も、ノアが持ってきた菓子の味を忘れることは決してなかった。
***
食事や入浴を終えると、セオドアは客室で一息ついた。いつもは恋人の部屋で語らいくつろぐ時間であるが、部屋が別になると自然と早い時間に体を休めたくなった。ベッドに腰かけたところで、扉が控えめにノックされた。
「セオ様、一緒にお酒はいかがですか」
セオドアが寝酒を嗜むことを知っていたルイは、度数の低いワインを持ってやってきた。すぐに扉を開けてやると、おずおずとルイが顔を出す。
「眠とるときは自分の部屋に戻るから」
健気に佇むその姿が愛おしかった。セオドアは「おいで」と彼を招いて扉を閉める。2人でワイン瓶一本分を飲み干したころ、ふにゃふにゃになったルイをセオドアは部屋に戻してやった。自身も体の火照りを感じ、早々にベッドで横になる。今日はいつもより穏やかな眠りにつけるような気がした。
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