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  嫌味なくらい天気が良かった。普段はおろしている前髪を、しっかり後ろに流して固定する。純白の布地に金や青の装飾を散りばめた豪奢な衣装を身に着けた。セオドアは息を重く吐き出すと、結婚式の会場へと足を踏み入れる。     見慣れた貴族たちの顔ぶれに顔を引きつらせる。唯一の救いは兄が朗らかに笑い、政略とはいえ弟の結婚を喜んでいることだった。先に壇上へ上がり、もう一人の新郎を待つ。式では基本的に婿入りする側の婿が後から入場する(女性の場合もまた然り)。我が家へ迎え入れるという意味があるとされている。     扉の前から小さな合図が送られ、ノアの入場準備が整ったことが知らされる。セオドアは入り口に体を向け、重そうな扉が開かれるのを待った。     温かな光の中から現れたのは、純白のタキシードに身を包み、美しい装飾が施された短剣を胸の前で握ったノアだった。それはとても美しい姿だった。純真に主人に命を捧げる騎士そのものである。     短剣を捧げることは、相手に命を捧げることを意味する。騎士でも良く使われる終身契約の方法で、生かすも殺すも主人に任せるという一番重い契約である。神の前で愛を誓い合った後、キスをした短剣を相手に捧げる。短剣を受け取れば契約が完了したことになるのだ。     もちろん皇族として、その契約の重さを知るセオドアは驚いた。最近の婚姻の儀式では、お揃いのアクセサリーを贈り合うのが主流だ。皇族も例外ではなく、もちろんセオドアも指輪を準備していた。指輪は二つであるのに対し、短剣は一つ。それはつまり。     ――見返りを求めない従属……。    
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