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  こんな時でも表情を変えないノアに、背筋が凍るほどの恐ろしさを覚えた。貴族たちの間でもざわめきが起こる。ノアはただ静かに歩みを進め、やがてセオドアの隣に立った。      神父は笑みを浮かべたまま儀式を始める。「愛し合うことを誓うか」という陳腐な質問に、セオドアとノアはyesと答えた。ついにその儀式が始まった。セオドアは青色の宝石がはめ込まれた指輪をノアの薬指にはめてやり、ノアもまたセオドアの指にはめた。そして、神父に預けていた短剣を受け取ったノアは、それに口づけを落として差し出す。     セオドアは思わずためらってしまった。一瞬動きをとめただけで、周りの参列者にとっては取るに足らない時間だったであろう。しかし見えてしまった。ノアが目を細め、唇を噛む姿を。それさえほんの少しの変化で、セオドアほどの距離でなければ見えなかったはずだ。     「確かに受け取った」     短剣を手に取った瞬間、ノアの手が震えているように見えたのは、流石にセオドアの見間違いだったに違いない。そう思うことが正しい判断だったように思えた。セオドアが短剣を懐にしまうと、神父は誓いのキスを促した。     ノアの手を取って口づけを交わす。初めて重ねた唇からは、氷のような温度を感じた。
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