Prologue

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  この話は、とある世界の、とある時代。魔法があって不思議な生き物もいる。そんなファンタジーな世界の話である。   女性の人口が減少し、一部の男性が妊娠を可能とすることが常識であった。妊娠が可能の男性のほとんどが、女性もしくはそれ以下の身体能力で生まれる虚弱体質だ。さらに、子どもを産むためには体力だけでなく、多くの魔力が必要とされた。   そのため、父親となる男性は、母親となる男性に魔力の供給を定期的に行わなくてはならない。この行為はどちらの男性にも負荷がかかるため、魔力の補給を必要としない女性は重宝される。   しかし、母親の素質をもつ男性は、中性的な美しさを持つことが多く、それを好んで娶るものいる。その運命を背負って生まれたこと自体が不幸という訳ではないのだ。   そんな世界の中で、一番強大な軍事力を誇る帝国。ゼルジュ帝国の第2皇子は、今宵一人の花婿を迎える。皇帝である父が勧めた婚姻。政略結婚であった。   披露宴の会場の扉の前。花婿の表情には何の感情も浮かんでいないように見えた。   「そなたが、どこのどなたかは存じ上げない。そして今後聞くこともないだろう。ただ役目を果たせ」   遠回しに、愛情を求めないよう忠告する。第2皇子には、男性の恋人がいた。男性も愛せることを知られているため、早い段階で余計な期待を抱かせないようにしたかった。   「承知いたしました」   平坦な返事。なにも浮かばない表情。決して交わらない視線は、すでに扉に向けられていた。無表情な男の顔は、派手ではないが無機質な美しさがあった。   皇子が頷いて前を向いたとき、豪奢で重い扉が開かれた――。
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