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  そのまま雰囲気が柔らかくなることはなく、お茶会は業務的に進められた。セオドアの笑顔には疲労が滲んでいる。対するノアは、相も変わらずやや視線を下に向けて、聞かれたことに返事をするだけの作業を繰り返していた。使用人たちもその空気の悪さに息を呑む。   披露宴までの計画を確認したところで、空気の悪いお茶会はようやくお開きとなった。立ち上がったとき、ノアがほんの少し目の下をこすったように見えた。彼もまた、疲労を感じていたのかもしれない。   「では、衣装の採寸については後ほど人を送る」   「分かりました。本日はお時間を頂き、申し訳ありません」   「構わない。だが、私用で会うことは許可しない」   心得ているといった風に、ノアは深く頭を下げた。彼と別れて廊下を歩いていた時、セオドアはいつも心がけていた柔和な笑みが消えていたことに気付き、口角を持ち上げるように笑った。   人受けの良い笑みを浮かべるセオドアと、無機質な表情のノア。傍から見ても、本人たちから見てもいびつな婚姻だった。   ***   セオドアが次に訪れたのは、キャンベル侯爵の私邸だった。キャンベル侯爵は国境近くに領地を構え、そちらに本邸がある。帝都にあるのは、息子であるルイ=キャンベルが学園に通うために構えられた屋敷である。卒業した現在は、ルイとセオドアが逢瀬をする場所であり、キャンベル侯爵夫妻が帝都に宿泊する際の私邸という扱いになっている。   慣れたように地味な馬車から降りたセオドアは、気まずい面持ちでキャンベル侯爵邸の門をくぐる。すでに手紙で婚姻についてと、それによるルイの待遇については知らせてある。しかしルイからの返事の手紙は、思っていたよりも素っ気なかった。さらに、婚姻が決まってからは初めて会うため、ルイに合わせる顔がないという考えが、セオドアの胃を痛めていた。
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