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  いつも2人で紅茶を飲む部屋に通されると、ほどなくしてルイが顔を出す。機嫌があまりよくないのは一目で分かった。   「ごめん」   ルイの前では砕けた口調で話すと約束していた。例えそれが皇族らしからぬ口調であったとしても、恋人としての態度だと以前ルイが言ったのだった。   「どうして、もっと早く会いに来てくれなかったの」   予想通りむくれた表情のルイ問う。そんな彼をセオドアは自らの隣に座らせ、申し訳なく思いながら事情を説明する。ルイは瞳を潤ませながら聞いていた。   「そうだよね、セオ様が望んだ結婚ではないんだものね。本当に愛する者として、僕が支えるから」   「地位は譲っても、愛だけは譲らない」とルイはセオドアの手を握った。こういったルイの強さは、学園にいたころから変わらない。侯爵家という、貴族の中でも身分の高い地位にありながら、国境近くのキャンベル家は遠いこともあり、帝都の社交界になかなか現れなかった。   そんな時、たった一人の跡継ぎであるルイが学園に通うため、帝都にやってきた。帝都の社交界に出ておらずとも、国境近くの貴族たちが集まるグローバルな場には顔を出していたようで、世間知らずという訳ではなかった。   むしろ、帝都にはない柔軟な思考や、国交に対する熱意に好感が持てた。その一面を知った時から、セオドアはルイを情愛の対象として見るようになっていた。やがて2人は結婚を約束するほどの仲へと発展した。   セオドアは皇帝にはなれないものの、国交を先駆する役職についている。そんな彼だからこそ、従順すぎるノアに良い感情を持たなかったのかもしれない。   「婚姻の儀式まで時間がない。早く済ませて、ルイを新しい邸宅に迎えるよ」   「僕、ノアさんと仲良くできるかな」   「そう気にする必要もないだろう。何を考えているか分からないような男だった」   「セオ様がそんなに、嫌うなんて珍しい」   目を瞠ってルイがセオドアの顔を覗き込む。   「私にも好き嫌いくらいあるさ。それとも、こんなことを言う私に幻滅したか」   ルイは可愛らしく小さな笑みを漏らすと、セオドアの頬にキスを落とした。   「僕がどんなあなたも愛しているのを、知っているくせに」   「そうだったな」   セオドアも口角を上げ本来の笑みを見せると、今度こそルイの唇にキスをしたのだった。
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