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「今日で最後だよね」
「うん。明日引っ越しだよ」
僕たちが付き合い始めたのは高校一年生の秋。
そして僕が転校することになったのが高校二年生の春だ。
「春は出会いと別れの季節だって言うけど、まさか高二も該当するなんて思わなかったよ」
引っ越し前日の放課後、彼女は公園のブランコに座って揺られていた。隣に座る僕の視界から消えたり現れたりしている。
「引っ越し先って遠いんだっけ?」
「うん。新幹線使っても半日はかかるかな」
「そっか。じゃあ今度ちゃんと会えるのは夏休みかもね」
季節変わっちゃうなあ、と最高点に達した彼女は空にぼやいた。
「……寂しくなるね」
「大丈夫だよ。現実で会えないなら夢の中で会えばいいんだから」
「あはは。そうだね」
それは、てっきり寂しさを紛らわすための冗談だと思っていた。だからその時の僕はそんな彼女のあまりに健気なセリフに心打たれ、どんなに離れても彼女を手放したくないと思った。
「元気でいてね、彩さん」
「瞬くんも」
ブランコは止まり、僕たちは公園を出る。
「また連絡するね」
そう言って見えなくなるまで手を振って別れた日の夜、彩さんからメッセージが届いた。
お別れのメッセージかもしれないと開いた画面にはひとつのデータファイルが送信されていた。僕はそのファイル名を確認する。
『明晰夢デート計画書』
なんだこれは。
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