40人が本棚に入れています
本棚に追加
3
『昨日は夢見た?』
「いや僕は見なかったな。彩さんは?」
『シーラカンスとラップバトルしてる夢見た』
「どんな夢だよ」
心のツッコミをそのまま文字に変えて送信する。トーク画面に僕のツッコミが表示され、『既読』の文字が彼女に届いたことを教えてくれる。
僕はスマホの画面を閉じて横断歩道を渡った。これから僕は登校前にパン屋でメロンパンをひとつ買い、8時に教室に入って自分の席で食べる。きっと彼女も同じようにしているはずだ。
もう既に計画は始まっているのだから。
「――明晰夢って知ってる?」
引っ越しを終え、荷解きの間に合わなかった段ボールを積み上げた部屋で僕は彩さんの問いに答える。
「知ってるよ。夢の中で『これは夢だな』って気付くことだ」
「そうそれ。それってさ、自分の意思で夢の中を自由に動けるんだって。記憶もあるらしいよ。じゃあさ」
彼女の名前が表示されたスマートフォンは彼女に似た声で彼女の言葉を再生した。
「じゃあ私たちがお互いに同じ明晰夢を見れば、夢の中でデートできるってことじゃない?」
それを聞いた僕は理解が追いつかず少しの間固まった。
いやいやそんなことできるわけないでしょ。僕たちの夢が繋がってるかもわからないのに。
「そんなロマンチックな」
「恋愛ほどロマンチックで超常的な現象はなくてよ」
そう言って笑う彼女の声を聞いて。
僕は聞こえないように小さくため息を吐く。
ああそうなったら本当に素敵だな、と思った僕の負けだった。
最初のコメントを投稿しよう!