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『昨日は夢見た?』 「いや僕は見なかったな。彩さんは?」 『シーラカンスとラップバトルしてる夢見た』 「どんな夢だよ」  心のツッコミをそのまま文字に変えて送信する。トーク画面に僕のツッコミが表示され、『既読』の文字が彼女に届いたことを教えてくれる。  僕はスマホの画面を閉じて横断歩道を渡った。これから僕は登校前にパン屋でメロンパンをひとつ買い、8時に教室に入って自分の席で食べる。きっと彼女も同じようにしているはずだ。  もう既に計画は始まっているのだから。 「――明晰夢って知ってる?」  引っ越しを終え、荷解きの間に合わなかった段ボールを積み上げた部屋で僕は彩さんの問いに答える。 「知ってるよ。夢の中で『これは夢だな』って気付くことだ」 「そうそれ。それってさ、自分の意思で夢の中を自由に動けるんだって。記憶もあるらしいよ。じゃあさ」  彼女の名前が表示されたスマートフォンは彼女に似た声で彼女の言葉を再生した。   「じゃあ私たちがお互いに同じ明晰夢を見れば、夢の中でデートできるってことじゃない?」    それを聞いた僕は理解が追いつかず少しの間固まった。  いやいやそんなことできるわけないでしょ。僕たちの夢が繋がってるかもわからないのに。   「そんなロマンチックな」 「恋愛ほどロマンチックで超常的な現象はなくてよ」  そう言って笑う彼女の声を聞いて。  僕は聞こえないように小さくため息を吐く。  ああそうなったら本当に素敵だな、と思った僕の負けだった。
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