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「夢でデートするにはまず二人で同じ夢を見なきゃいけないよね」
目の前の画面から彼女の声が聞こえる。
ただ今の僕のスマートフォンの画面に彼女の名前はない。表示されているのは先日送られてきた『明晰夢デート計画書』だ。
しかしその計画は発想の荒唐無稽さとは裏腹にとても現実的に考えこまれていた。
「夢ってその人のその日の記憶を整理してエピソード化したものなんだって。じゃあ私たちは一日の記憶を合わせるところから始めなきゃいけない」
「つまり生活リズムを揃えるってこと?」
「そう。リズムもだし、できるだけ生活スタイルも合わせたいかな。食べるものとか見るものとか。幸い私たちは同い年の高校生。毎日同じ時間に起きて、同じような授業を受けて、同じ時間に眠れる。あとは私たち次第でもっと重ねることもできるはず」
計画書のひとつ目の項目『生活を重ねる』の項目を僕は目で追う。
「それと夢はレム睡眠の時に見るの。レム睡眠とノンレム睡眠は90分間隔で入れ替わるから、7時間半眠ればチャンスは一晩に3回ある。7時に起きるなら夜の11時半に寝よう」
僕はふたつ目の項目『夢見の時間』を見ながら「なるほど」と頷く。相手には見えていないのに頷いてしまうのは何故だろう。
「最後に。私たちは眠る直前、お互いのことで頭をいっぱいにしなきゃいけないの。一説によると、眠る直前の印象的な言葉や出来事は夢に殊更大きな影響を与えるんだって」
計画書の最終行。
最後の項目『君を想う』を見た瞬間、僕の心臓は少しだけ跳ねた。
「印象的って、パワーワードってこと?」
「まあそれもアリだけどそんなに毎回パワーワードも無いでしょ。それよりもっと私たちらしい方法があるよ」
そう言って彼女はとんでもない質問を口にした。
「ねえ瞬くん、私と付き合って一番ドキドキした瞬間っていつ?」
電話越しの彩さんの声が僕の耳に届く。
その質問に答えさせるのは、なかなかに酷だと僕は思うのです。
「……彩さんに『好き』って言われた時、かな」
「うん、それでいこっか」
そして彼女は平然と言いのける。
この時ほど彼女の表情を見たいと思った瞬間はなく、僕の顔が見えなくてよかったと思った瞬間はない。
「毎晩寝る前にお互い告白し合おう」
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