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6
『もう無理かもしれないね』
テーブルに置かれたスマートフォンが震える。
その画面に表示されたメッセージを確認して僕はすぐさま電話をかけた。
「え、僕フラれた?」
「あ、ごめん。そっちじゃなくて」
計画のほうだよ、と笑う彩さんに僕は止まっていた呼吸を思い出す。何だよ、めちゃくちゃ焦ったじゃないか。
「夢の中で会おうなんてそれこそ夢物語だったのかなって」
「なんでそう思うの?」
「逆によくそう思わずにいられるね。あれだけ失敗したのに」
彼女がそう言ったのは20回目の失敗を越えた木曜日の放課後。計画を始めて二ヶ月が経った頃だ。
この計画自体を楽しんでいた僕はあまり感じなかったが、発案者である彼女は夜を越えるたびに失敗という言葉を積み上げていたのかもしれない。
次こそ。今度こそ。
その気持ちだけで立ち上がるのには限度がある。
「どうしてうまくいかないんだろう」
「夢の話だからね。現実じゃ計れないものがあるんじゃない」
「まあそうなんだけどさあ」
黒い画面に名前を映した彼女は「むうー」と不満気に唸る。その声に僕は少し思っていたことを付け加えた。
「それにやっぱり、違うしさ」
「違う?」
「うん」
また僕は電話先の彼女には見えないことをわかっているのに頷いてしまう。
「完璧に重ねるなんて無理だったんだよ」
『生活を重ねる』
僕は計画書の第一項目を思い出していた。おそらくあの三つの項目の中で夢の内容に作用する最も重要なファクター。
「僕たちがどれだけ連携を取って生活リズムを合わせても、話す友達も教えてくれる先生も違う。解いてる宿題もお風呂の広さも違う。そもそも住んでる場所も違う」
計画に穴があったとは言えない。もしかしたらあの計画書の内容を忠実に再現すれば夢の中で会うことも可能なのかもしれない。
だからこそ、夢で出会うのは不可能なんだと思う。
「僕たちはどこまでいっても違う人間だから」
違う人生を歩む、違う人間だから。
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