3.秘境の温泉

1/3
前へ
/11ページ
次へ

3.秘境の温泉

 ヘビ男の事件が落ち着いたころ、オレは一つの計画を立てていた。この街から海岸沿いに東に数キロ行った所にある秘境の温泉を思い出したのだった。  海岸に沿ったその温泉は、ほぼ自給自足のような感じの温泉で、源泉を湯舟にため、自分で薪を集めてきて風呂を沸かして入るというものだった。料金は一人300円と格安で、置いてある料金箱に入れておけばいいというなんともすごい温泉だった。  この前の事件でレイは、冷たいドブの中に2時間も漬かっていたため、オレは温めてやりたいとずっと思っていた。ま、オレとレイで一緒に小さな風呂に入りたいという本音もあるのは間違いないが……。  キャンプするには少し肌寒いが、寝るには車を使えばいいし、布団も一組でいい。あらかじめレイにこの温泉のことを話すと、一緒に行きたいと言われたし、たった一泊だし問題ないよな。出発の前日に優菜に話したら、当然親指を立ててウインクしてやがった。  レイと明日持っていく食料などの買い込みに、S市内まで一緒に行った。新婚てのはこんな感じなのかな。やはりレイと一緒にいると楽しいし、安心できる。今ではもうレイも心を開いてくれているし、恋敵(ライバル)もいなくなったことだしな。  この秘境の温泉は、街の人でも知らない人が多い所で、利用する人もほとんどいないのは確認している。時々パトロールの名目で下見をしていたからな。元々はここに温泉宿を作る予定で大手の会社が源泉の権利を買ったらしいが、あまりに秘境過ぎて客が見込めないことに加え、思ったよりも源泉の水量が少なかったことなどで、その会社は温泉宿の建設を見送ったという経緯があるらしい。だから今では人を置く人件費も出せないから、中古の風呂を置いて料金箱だけが置かれているだけの幻の温泉となったみたいだ。  ただし、利用する者は、周囲の雑木林や海岸から薪を調達するのが最初の作業となる。キャンプ当日、現地に入ったオレ達は仕事を分けた。 「レイ、薪集めはオレがやるから、風呂の蛇口を開けて水を貯めておいてもらえないか?」 「わかった。やっておくわ」 「クロとシロは、レイの相手をしてやってくれ、頼んだぞ」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加