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揺れる地盤。
違う。
これは船底だ。
僕はそこで複数人で巨大なオールを持って漕いでいた。
なぜ、ここに居るのかは分からない。
しかし、日記を読めば大体の経緯は分かると思って懐の日記へと手をのばすと視界が大きく揺れた。
「チッ、大シケだ」
「波に飲まれるぞ、物に掴まれ!」
船は嵐の真っ只中であり、迂闊に動けないといった現状、事情は分からないが船を漕ぐという仕事が与えられているので、オールを精いっぱい回す。
「やるじゃねえの坊主」
共にオールを持っていた大柄の男が僕の背を叩いてオールを持ち上げている。
僕の体はその男よりも一回りもふた周りも細身であり、叩かれれば骨の芯まで響いて手が痺れる。
潮を孕む灘風。
長い髪は水気を帯びてじっとりと肌に張り付き、波の飛沫が服を重くする。
荷重に顔を歪めていると、高波が船を大きく揺らした。
同時に風に煽られて船が垂直に波を走っていた。
重力に引っ張られて落ちていく感覚。
足が海面へと引っ張られていく。
波に攫われる恐怖と共に、藻掻いて藻掻いて掴んだのは先程の男の体躯だった。
「坊主、そのまま離すなよ!」
引っ張り上げられて、船底が水平に戻ると、床に足を付けて彼に礼を言う。
「ありがとうオジサン」
「オジサンじゃねえ!ハワードだ!」
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