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「実はわたし男なの、って言ったらどうする?」
今日初めて話したクラスメートからの予期せぬ言葉にただ驚くしかできなかった。
時間は少し遡り、部活を終えて徒歩での帰宅途中。湿っぽい風が吹いてきたなと思ったら、突如として空が真っ暗になり突然の夕立。少しくらいの雨なら濡れて帰ってもいいかと思ったが、あまりの勢いで近くの休憩所へと雨宿りをすることにした。
この辺は田舎道で特に店とかもなく、バス停の無人待合室に公衆トイレもついていて、ちょっとした休憩所のように利用されている場所である。
多少濡れたがなんとか事なきを得た。
ただでさえこの辺りはあまり人気のない所ということもあり、さらに18時という時間も相まって室内には誰もいなかった。
もう少し雨が治まったら強行突破で帰るか、それともおとなしく親に連絡して迎えに来てもらうか、ガラス越しに空を見上げながらボーっと考えていると、後ろの方からゆっくりと出入口のドアが開く音が聞こえた。
この時間に人が来るとは思っていなかったので少しドキリとしたが、どんな人が入ってきたのだろうかと気になるので薄っすらと振り返って確認する。
すると、まさかのセーラー服、同じ学校の女子だ。安心と同時にこの狭い空間に二人きりという状況を考えると若干緊張もしてくる。
それにしてもその女子は全身ずぶ濡れで黒髪ロングヘアーから水滴が滴っている。完全にホラー映画に出てくる幽霊のようだ。そのままこちらの方へ揺れるような感じでひたひたと歩いてくる。
全身ずぶ濡れで分からなかったがやたら長い髪、その独特な歩き方で、同じクラスの清里さんだということに気付いた。
高校1年の時から同じクラスで、高校2年でクラス替えになってもまた同じクラスになってしまった。ただ、一度も話したことはない。というか、俺以外とも誰とも話してる姿を見たことがない。男は当然、同姓の友達もいないはずだ。
授業中、先生に指名されても皆の前で発表するようなこともしない。そのくせテストでは学年1位を取り続けているからわけがわからない。
そしていつも俯き気味で、前髪は目を覆い、垂れ下がった髪は顔の輪郭を隠し、口元が若干見えるかといったぐらいだ。なのでまともに彼女の顔を見た人はいないのではないのかと思える。
クラスメートからは目に見える幽霊という認識で、話しかけることも、話題の中で触れることもなくなっていった。イジメの対象にすらならないという完全に特異な存在である。
そんな彼女だからこそ、2人きりでこの狭い空間にいるというのはとても居心地が悪い。まだ雨の勢いは衰えていないが、帰るべきだろうかと横目で清里さんを捉えながら空を眺める。
「輪島君……私の透けブラが見れるなんてラッキーだね」
初めてまともに声を聞いた。俺の名前をきちんと把握してやがる。いや、それもそうだが……初めて話しかけられたセリフが……透けブラ!?
「あ、ああ、すまん。見る気は……なかった……」
「ふふ、別に大丈夫」
全然気にしてなかったが言われてみると雨に濡れてブラジャーが完全に透けて見えている。異性として意識してなかったせいか気が付かなかった。イメージと違いピンクの可愛らしい柄に若干性欲が擽られてしまったのが自分でも悔しい。
そう、そんなことを思っているといきなり彼女から冒頭のセリフが飛び出したわけだ。何の意図があるのかは不明だが、もし言う通り男だとすれば女のフリをしていたからばれないようにするために普段から声も出さず、友達も作らず、大人しくしていたと言われれば、なるほどとも思える。
しかし本当にそうなのだろうか。声は実際女っぽかったし、胸もあるように見えるが……まあそこはパットとかで誤魔化すことはできるか。
「どっちだと思う?」
「えーと……うんと……」
「遅い、時間切れ。正解は……男でした。……なんてことはなく、きちんと女の子です。男だと思った?」
「いやぁ、そんなことはないけど……」
なんだこの意味のないウソは。相変わらず髪の毛で顔は隠れており表情がほとんどわからないからどういう意図があるのか読めない。
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