* 遥果 *

1/7
前へ
/16ページ
次へ

* 遥果 *

「今すぐ会える?」  ちょうど授業が終わったばかりの水曜の放課後、夕映さんから呼び出された。  学校のすぐ近くの海岸で待ってるからって。  夕映さんは、砂浜に降りる石段に座って海を眺めていた。  私は強風に髪が弄ばれているのを押さえながら、目の前に立つ。 「ほんとに高校生だったんだね」  はためく制服姿の私を見て、彼女はにやりと笑う。 「余計なお節介を焼く人がいてね。ここの制服着てる遥果を見たって」 「高校生じゃだめなの? もう18よ」 「だめじゃない。ちょっと見てみたかっただけ。可愛い」 「奏多も、知ってる?」 「そうね。彼もその場にいたわ」  夕映さんは立ち上がって、私の髪を撫でる。 「奏多が遥果に惹かれてるのは、最初から知ってる。『夕映の代わりに彼女抱くけど、いいか』って聞かれた」 「で、いいよって答えたの?」 「はは。別に許可なんて、奏多にはいらないんだ」  奏多は嘘つきだ。本当のことなんて別に意味がないけれど。 「遥果は、私のことがすきなんだと思ってた」  わかってて、奏多とのことずっと知らんぷりしてたんだ。夕映さんは残酷だ。  私を撫でるその指先。あなたに触れられたくて口紅を選んでいたことも、きっと知ってて。 今日は制服だから何もつけていない、無防備な私。 「行こうか」  私の腕をとって、自分の腕を絡ませる。  遠くまで海沿いの道を歩いてから、怪しい界隈に足を踏み入れた。女二人で入るラブホ。しかも、私は制服姿。  至近距離で香る夕映さんの甘い匂いに気絶しそうになる。  奏多を通して微かに香っていたあなたに、やっと辿り着いた。  ねぇ、もしかしたら、夕映さんも奏多を通して私を感じてくれた? 「奏多はどんな風に遥果を抱くの?」  黙っていた。意図がわからない。  嫉妬で私を滅茶苦茶にしたいのかな。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加