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夕映さんと奏多が、私のバイト先に保護者ぶって偵察に来た。表の顔をして。
波が夕陽を砕いて、窓際に何度もまぶしい光が弾けていく、そんな午後。
どうせ、あれでしょ。今度はファミレスの制服姿を見に来たんでしょ、奏多は。あいつが制服フェチだったなんて。
「私はシードルにバニラアイスのっけてね」
「俺は運転あるから、ジンジャーエールにのせて」
「あの、メニューにありません。二人ともフツーにクリームソーダとか、頼めないんですか?」
夕映さんの唇が可愛くつんと尖る。
「シュワシュワ度がねー。『大人のクリームソーダ』とか作ってほしいよね」
あるのは、メロンソーダ、レモンソーダ、トロピカルソーダ。です。
仕方ないから私が作ってみたよ。
こっそり厨房でシードルにブルーキュラソー入れて海の世界。イルカも気に入ってくれそうなキレイな色。
夕映さんは、嬉しそうにストローで氷をカラカラ言わせて、眺めてる。
「夕映の方はいいけど、俺のは……。即効で水替えレベルの水槽の色だよ」
確かにね、ジンジャーエールは茶色だから、濁っちゃったね。
夕映さんの方にクリームをいっぱいのせたから、ズルイって奏多が悔しそうにそれを掬う。
彼女がおいしそうに唇を舐める。二人はお似合いだ。
*
私のバイトが終わるのを待って、三人で海岸にやって来た。
ただただ夕闇が落ちるまで、波打ち際で戯れていよう。光を反射する砂浜が、キラキラを閉じ込めるまで。
奏多が私たちを映す。カメラを持つと途端に真剣な顔つきになるのね。その目がすきだ。その腕に抱かれたくなる。
夕映さんが屈託なく笑う。それを、奏多がまぶしそうに見つめる。
あのね、私は、何者でもない私を受け入れてくれたあなたたちがすきなんだ。たとえ埋め合わせのピースでも構わない。半端に転がっていた、気になる形でいいの。
きっと生きていくって、そういうことなんでしょ?
行く末が見えなくて簡単でなくても、わかった振りをしてやり過ごしてしまう。
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