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同級生はみんな正直くだらなく見える。誰も背伸びなんてしてなくて、等身大のちっぽけな自分で満足しているみたい。
アイドルのコンサートのチケットを取るための裏技とか、私には必要ない。誰彼の噂も、昨日見たTVにも興味がない。不特定多数の中に紛れそうで落ち着かない。
いつだって遠巻きにされる方だった。
小学生の頃、給食費を払えなくて、何であの子食べてるのって言われるのがイヤで拒食症になった。
中学に入ってもあまりたべられなくて、痩せっぽっちだった。
いつまでも私を取り巻く空気は変わらない。
高校は中学からの知り合いが少ない、できるだけ遠いところを選んだから、視線は控え目になった。
自分を薄めたかった。私にはどうやったら友だちができるのかわからない。
休み時間はいつもイヤホンをして夕映さんの音楽を聴いて、私に必要な物語だけを選んで読む。
難しい言葉を無理矢理に刻んでみると、私みたいな人間でも、まるで賢くなったみたいに思える。
いつも一人でいる女。それが私。それで十二分。あと一年で卒業できればいいんだから。
次はもっと遠いところに行こう。新しい自分になれるかもしれない。
高校に入ってコンビニでバイトをはじめた。余ったお惣菜を貰って帰れるから。
店の中には今日もカラフルな料理が並んでいる。私にとっては全てご馳走で、はじめて見るものも多くて驚いた。
世界は色んなもので溢れている。
自分が働いてから食べたものは、噛んで歯応えを感じて、身体に沁み渡っていくみたいに思えた。
*
ライブハウスではバンドセットになる。
野外の時の消え入りそうなかすかな声とは裏はらに、楽器の音に後押しされて、あなたの声が空間に力強く響き渡っていく。
それでも浸る心地良さは変わらず、果てしなく波に揺られるメロディラインに乗って、私は揺蕩い続ける。
高校生はライブに制服なんて着ていかない。大人びた振りをして黙っていれば、私の容姿は軽く二十歳には見られたはずだ。
いつしか覚えてもらえて、ライブの後の打ち上げに誘ってくれるようになった。
ライブの後、いつも夕映さんのいちばん近くにいた男の人、それが彼だった。
奏多という名を聞いた時、運命を感じた。
私の名は遥果。二人合わせて「はるかかなた」でしょ。
奏多は雑誌のカメラマンだ。仕事で夕映さんを撮って以来、公私共に彼女のパートナーになったらしい。彼女のライブには、必ず彼の姿がある。
ある晩のライブのさなか、ふと彼が私にカメラを向けた。
私は横目でそれを知ったけど、素知らぬ振りで、いつも通りに夕映さんの声に身を委ねた。
その時の写真が音楽雑誌に載り、どういう訳か編集者の目に留まった。
私は奏多が撮るモデルを時折やることになった。断る理由などない。
ライブに通うにはそれなりにお金がかかるんだ。コンビニのバイトよりモデル代の方が高い。
嬉しかったのは、夕映さんと一緒に撮影されたページ。宝物にして何度も眺めてる。
「ね、どっちの髪が長いかな。背中合わせで比べっこしよ」
夕映さんが無邪気にそう言う。
私たちは身長がほぼ同じで、髪の長さは夕映さんがくるんとしている分、短く見えた。
ライブの後、私はいつも彼に抱かれる。奏多は夕映さんの恋人なのに、だ。
打ち上げの乾杯が終わると、夕映さんはふらふらと家に帰る。燃え尽きてベッドでぐっすり眠ってしまうらしい。
反対に興奮状態になった奏多は、いつだって自分を持て余していた。
彼は食らいつくようにシャッターを切り続けて、高みに昇る。
もうどこにも降りたくない。そんな目をして、見つけたのが私。
裏切っているようで、これが近道だって、本能が訴える。
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