* 奏多 *

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* 奏多 *

 彼と抱き合うと、潮の香りがしてくる。彼の体臭は海そのものだ。  きっと海岸で産み落とされ、ずっと波をゆりかごにして育ったのだろう。  人間の姿をしたイルカかもしれない。或いは、やさしい顔して内実は獰猛な部分もあるから、シャチか。  抱き合うといつも海。ゆらゆら揺れて波の中。私は引きずり込まれて溺れていく。  毎日、海岸で撮影している奏多の部屋には、写真がたくさんばら撒かれてる。  青い世界、グレーイッシュトーンの波、空、雲。無作為に散らばる色。  海のそばではいつも、世界は落ち着きなく動いているんだ。  そんな部屋で抱かれるのが、私にとって何より海を感じられることだった。    彼の手はやさしい。決して乱暴に私を抱いたりはしない。  その癖、容赦はない。私の奥の奥まで届く長い指先。関節を軽く曲げただけで、芯に届く曲がり角を作り、私は快楽で口が閉じられなくなる。  私が高校生だと知ったところで、きっと彼は1ミリも変わることはないだろう。  彼の両手が私の胸の先を何度も撫でる。  レンズを絞るように回して、私のスイッチを入れていく。  せつなくて止められなくて、無限に望んでしまう。ねぇ、誰に対してもそうなの?  私は瞬時に裸にされる。何もかも剥ぎ取られる。  彼は洋服など目もくれずに、部屋に入った途端に私の衣を取り去ってしまう。  どんなに着飾っても、試しに黒の下着を付けてみても、彼の前では何の意味もない。
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