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小4の時、クラスの係決めをしました。私は臭くて汚くて誰もやりたがらなかった飼育係に立候補しました。 あんなに元気よく手を挙げたのは初めてだったので、先生も驚いていましたね。 同じ飼育委員の男子は意地悪で嫌いでした。放課後塾があるとかで、私に掃除を押し付けて帰ります。あとはやっとけ、チクんなよ。好都合でした。彼が正門をでてくのを見送るやいなや、私は竹箒を放りだし、小屋のうさぎを捕まえました。白くてふわふわ、生まれたての可愛いうさちゃんでした。 もちろん可哀想だって思いましたよ、当たり前じゃないですか。でもペットがお腹をすかせてるのをほっとけません、あの子に餌をあげないと。私はうさちゃんを服に隠し、高架下のマンホールへ赴きました。手の甲でノックすると蓋が持ち上がり、爬虫類の目が覗きました。 「はい、お食べ」 私がさしだすうさちゃんをひったくり蓋を下ろす怪物。ボリゴリムシャムシャと咀嚼音が響きました。 飼育小屋から一羽うさぎが消えても皆は気付きませんでした。二羽目、三羽目、四羽目……そろそろ危ないかな、と思いました。案の定、何度目かの当番の日に男子が気付きました。 「お前、うさぎどこやったんだよ?減ってんじゃん」 ばれちゃいました。男子はとても怒ってました。うさぎを逃がしたのがバレたら自分が叱られると騒ぎ、私をひどくぶちました。仕方ない。私はため息を吐き、彼をマンホールに連れていきました。 「ここにうさぎがいんのかよ?嘘吐いてんじゃねーだろな」 彼が疑うので、私は静かに首を振って言いました。ホントだよ、マンホールに耳を付けてみて。声が聞こえるでしょ。真顔で促された彼は、おずおずとマンホールの上に突っ伏しました。キーッ、キーッ、甲高い声がしました。怯えきったうさぎの声でした。 恐怖に顔を引き攣らせて起き上がった彼をよそに、ボリガリゴリムシャペチャクチャ咀嚼音が響き渡りました。物凄い声で叫び、あとじさる彼の足を怪物の手が掴みました。 お願い助けてママ、死に物狂いで抵抗する彼を中に引きずり込んでく怪物。私は傍らに突っ立ち、それを見下ろしていました。ランドセルが邪魔そうだな、と思いました。声がうるさかったので、とどめをさすのを手伝ってあげることにしました。一旦ランドセルを外し、習字の授業で使用済みの硯を出し、それで殴り付けました。何回か繰り返すと額が割れ、頭蓋骨がひしゃげる感触がしました。 彼はぐったりしてマンホールに消え、怪物は満腹になりました。しばらくは。 ……なんだかおかしな成り行きになりました。私が飼い主だったんです、優越感を感じてたんです。なのに途中から……高学年の頃には、私は怪物の飼育係になってたんです。怪物ははらぺこでした。食べごたえのある餌をあげなきゃいけません。 小学校の裏手の高架下は、夜ともなれば人通りがなく、餌を誘い込むのにぴったりの場所でした。 赤いランドセルを背負ってると面白いように釣れました。ごはんはホームレスのおじさんやサラリーマンのおじさん、色々でした。おじさんたちが私の身体をべたべた触っている間、怪物はじっと息を殺し、こっちを見ていました。目で合図をすると鱗に覆われた手がとびだし、おじさんたちの足首を掴んでマンホールに引きずり込むんです。あとはポリガリゴリムシャムシャ、ぱっくんです。 たくさん食べたので私の怪物はどんどん大きくなりました。残り物は全部片付けてくれます。ごはんを残さないいい子です。町ではどんどん人が消えていきました。マンホールに住む怪物の噂が流れだしたのはちょうどその頃でしょうか。ばれないように注意していたのですが……誰が気付いたのでしょうか。 最初は実体もあやふやだったのに、すっかり怪物らしくなりました。あえてマンホールを開けることはしませんでした。タブーだったんです。怪物はかくれんぼしてるんだから、それを暴くのは約束破りでした。 マンホールが多い町では人が消えます。この町も例外じゃありません。私だけがその理由を知ってます。怪物が食べてるからです。野良猫やネズミもあげましたが、やっぱり人間が一番おいしいみたいでした。 人の肉の味を覚えたら魚肉ソーセージでは物足りません。怪物の欲求は次第にエスカレートし……女の人の肉がいい、と言い出しました。いえ、喋ってません。目を見ればわかるんです。女の人の柔らかいお肉が欲しいって訴えてたんです。 さて困りました。男の人ならなんとかなります。大半はSNSを介して連絡をとりました。みんな怪物の餌になるとも知らないで、簡単に付いてきましたよ。「高架下でやるのも興奮するね」なんて、変に期待してた人もいたっけ。 お財布からお金を抜くのって悪いことですか?最初からくれる予定だったんですよ?ATMでおろすとこ付き添いましたし……ああ、それがきっかけでしたね。コンビニのカメラのアングル、注意しとくんでした。制服着てたのもダメですよね。アレ着てくと喜ぶから。最後に少し位おいしい思いさせてあげたいでしょ?苦しみ抜いて死んだ動物のお肉はまずいって本で読みました。気持ちよく死んだお肉の方がおいしいです。
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